ドキドキ、ワクワク。
遊園地に着く直前の子供みたいに、気分が高揚していた。
久し振りに高知に新しいうどん屋さんが誕生したのだ。
記憶が正しければ、去年の秋以来で、もちろん今年初の新規出店。
しかも、それは『味里』の直線上にあり、徒歩1分。
最初からそのつもりだった。
新進気鋭の店に、逢いに行くつもりだった。
味里を並盛でやり過ごしたのだって、全部作戦。
新店はセルフ。
そういう情報は事前に掴んでいたから、
"セルフの店は大抵1玉の量が少ない"というセオリーから、味里に先に行き、
その後、腹の張り具合に合わせて新店で玉数を決めるという算段だ。
けれども、本来、私はハシゴが好きじゃない。
「うどんのメッカ・讃岐」にあまり行きたがらないのも、
香川に行くと、ハシゴすることが前提になってしまうからだ。
"好きなモノに潰されそうな幸福を味わいたい"
常にそう思っているのに、
香川に行くと、"ハシゴしなきゃ損"という感覚が必ず芽生えて、
1玉発注連発で数軒のハシゴをしてしまう。
そして、高知に帰る道すがらで、
"これが俺のうどんの食べ方か?"と、いつも自問自答してしまう。
<なんか・・・俺・・・俺・・・!
本当の勝負をしてないっ・・・死線をくぐってない・・・!
カネだけ出して、楽して喰って、あぁ美味しかった、なんかそれ違う・・・!>
そんなの勝負師じゃねぇっ・・・!
うどんに締め上げられるような愉悦。
それをハシゴでは味わえない。
味里から新店に歩くわずかな間にこの法則が、フッと脳裏を過ぎる。
<味里で安全策をとらずに、大盛発注するべきだったかな・・・。
で・・・新店でも2玉以上の発注・・・そしたら両店で悶絶の展開だったのに・・・>
だが、過去に後戻りすることなど出来ない。
元々、新店に行こうとしても味里に行こうとしてもこの距離感では、
どちらか片方なんて無理な話で、両方行きたくなる衝動に駆られる運命にあらがえない。
進め。
それでも前へ・・・!
近付くに連れて、
心の迷いは立ち消え・・・。
ドキドキしていた。
ワクワクしていた。
遊園地に着く直前の子供みたいに、気分が高揚していた。
<潰せっ・・・!
俺を潰せっ・・・!麦笑・・・!>
『セルフうどん 麦笑(むぎわら)』
(後編へ続く・・・!)
『セルフうどん 麦笑(むぎわら) 後編/新星キラリ』