『土佐魚彩処 にしや』 → 『活貝・海老料理 満潮(みちしお)』 → 『Bar Optimista(バル・オプティミスタ )』
→ 「和楽路屋(わらじや) うどん・そば・ロボット屋台」
「Bar Optimista(バル・オプティミスタ )」を出た私は、
雨から逃げるようにして、すぐ北側にあるアーケードへ走った。
すると「高知大丸」の前に、高知では有名な、
通称「ロボット屋台」と呼ばれる「和楽路屋(わらじや)」が店を開いていた。
「和楽路屋」の営業は22時からだと聞いたことがあるが、
私が「バル・オプティミスタ」に入る前、
そのとき既に和楽路屋はこの場所に移動してきていただろうか。
酔っていて思い出せない。
せめて、まだ「バル・オプティミスタ」に入った時間がわかれば、
あの時ここに「和楽路屋」はあったはずだとか、無かったはずだとか言えるのだけれど、
この雨では明日も仕事にならないと、時間を一切気にせず飲んでいたから、
時間の感覚がまるで無いし、いま何時であるか、この期に及んでわざわざ確認する気にもならない。
ただ、うどんが食べたい。
散々、食べまくって、飲みまくって、お腹はまったく空いていなかったが、
とにかく、ただただ、うどんが食べたかった。
けれども、あいにく「和楽路屋」の周りに並べられた椅子に空席は少ない。
特に空腹だというわけでもなかったから、
無理に食べなくても良いか、と、一旦は「和楽路屋」を諦めて去ったが、
数百メートル歩いたところで、立ち止まった。
"和楽路屋のうどんは、飲みに来たときにしか食べられないぞ・・・!"
歩いているあいだ中、自分に語りかけ続けていたナニカ。
<たしかに・・・空腹だとか空腹ではないとか、そういう問題じゃない・・・
うどん愛してますか・・・?あなた本当に農業界のうどん野郎ですか?という話だろう・・・!
念願のチャンバラ貝もフィッシュ&チップスも食べたんで帰ります・・・?>
そんなヤツ、うどん野郎やないっ・・・!
ついに私は、"語りかけ続けるナニカ"に同調して、Uターン。
「和楽路屋」の前まで帰る。
だが、再び眼前にした「和楽路屋」を前に、
私は自分の優柔不断さを悔いるしかなかった。
そこに、さっきまであった、わずかな空席、
それさえも埋まり、完全な満席状態と化していたのだ。
これでは座れない。
しかし、もう諦めるわけにはいかない。
「和楽路屋」のすぐ近くに、しゃがんで待つことにした。
しばらく時間がかかるだろうと覚悟していたが、回転が良い。
5分とかからずに席が空いて、座ることができた。
しかも、確保できたのは、屋台の周りに設けられた即席の席ではなく、
屋台本体に最初から備え付けられている席、つまり"特等席"だ。
ここなら、"夜うどんの帝王"である、店主さんの動きも見れるし、
「ロボット屋台」と呼ばれる由縁になっている、「コップ自動洗い機」の華麗なる技も見られる。
空席がほとんど無い中で、このような素晴らしい席を確保できたのは
誰がどう考えても超絶なる幸運で、私が"トイレの神様"ならぬ、
"うどんの神様"に愛されている証だとしか言いようが無い。
丼を片付けたり、うどんを拵えたり、
世話しなく働く中年の店主。
通常のうどん店で言うと、「一般店」のスタイルで、
一人ですべてを行っているわけで、動きが物凄く速い。
速すぎて、時々、千手観音みたいに見える瞬間がある。
思えば、このロボット屋台、
私が酒を覚えたばかりの頃だった10年ほど前には、既にここで営業していたと記憶しているが・・・。
そうか、もはや、ロボット屋台の"オッチャン"のスピードは、ここまでの次元に達したのか、
と、屋台ならではの軽少な椅子に座ってうどんの出来上がりを待ちながら、感慨に耽っていると、
コップが飛んだ。
猛スピードで動くオッチャンの手から離れたコップは、
アーケード街の石畳に叩き付けられて・・・あぁ、割れる・・・!と思ったが・・・。
割れなかった。
かなりの高さから、それもかなりの速度で落下したにも関わらず、
なんと、石畳の上に落ちたガラス製のコップは、割れずにそのまま転がった。
<このコップ・・・ただのコップじゃない・・・!強化ガラスか・・・!>
「オンチャン怒りなよぉー」などと言いながら、
中年の男性客が落ちたコップを拾い上げる。
それをカウンター越しに受け取りながら、
「すまんねぇー物を飛ばしもってやりよらよぉー」と苦笑する店主。
和やかな時が流れる中で、私が注文しておいたうどんが出来上がった。
『天麩羅うどん(大盛)』
「大盛」でも値段が同じだと書いてあったから、当然大盛にした。
散々、飲んで食べてきたあとではあるが、うどんは別腹。
しなやかで飲めるような麺と、優しい味わいの、かけ出汁。
それらがアルコールが充満した体内に溶けてゆくのを感じながら、食べるうどん。
『かけうどん』
幸せである。
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