『ラストチャンス』 → 『ファミーユ前編』 → 『ファミーユ後編』 → 『シェルター』 → 『モスバーガー』 → 「ぎゅうせん」
夜は白々と明けはじめていた。
私の手はガタガタ震えていた。
麺欠乏症だ。
<やっぱり・・・!
昨夜のスパカツバーガーのスパじゃ足りなかったんだ・・・>
アルコールはスッキリ抜けていて、思考が順調に巡る。
油をさした機械みたいに。
<朝から麺を食べられる所・・・!
朝から麺を食べられる所・・・!>
郊外であるならば、朝から営業しているうどん屋さんを、
いくつか挙げることができたけれど、まだ私はこの街にいたかった。
「ぎゅうせん・・・!」
"アルコール油"をさしただけのことはある。
いつになく頭の回転がいい。
<ぎゅうせんは牛丼屋だが・・・!
たしか・・・うどんもラーメンもあったはずだ・・・!>
『ぎゅうせん』
高知の牛丼屋さん「ぎゅうせん」に来るのは、きっと10年ぶりとかだと思う。
以前は数店舗あったけれど、今は帯屋町の店舗しか無いらしい。
たしか前は"牛丼専科"という店名だった気がするのだけれど、
当時から定着していた略称、"ぎゅうせん"が店名になったのだろうか。
看板には「ぎゅうせん」と記されていた。
入ると聞こえてくる・・・!
大音量のイビキ・・・グーグーっ・・・!
<相変わらずだな・・・!>
「ぎゅうせん」に入るのは十年ぶりでも、
その十年前の頃には、私はかなり頻繁に来ていた。
明け方の「ぎゅうせん」に、仕事帰りの飲み屋の従業員や、
酔い潰れて店内で寝てしまっている人がいるのは、日常茶飯事の光景。
"様式美"と言っても良かった。
<ぎゅうせんは・・・こうでなくっちゃ・・・!>
テーブルに突っ伏して眠る、
太ったオジサンのイビキを微笑ましく聴きながら、入口で食券を買う。
私が頻繁に来ていた頃は、
よくある口頭で注文する形式だったけれど、
もう何年も前から食券制になっているみたいだった。
『とんこつラーメン』
うどんもあった。
でも、この局面は、昨夜"ラーメン難民"と化して以降、
ずっと食べたかったラーメンにした。
"ラーメンにしやがって・・・!
お前それでも農業界のうどん野郎かよ・・・!"
と天の声が聞こえた気もしたけれど、まぁいいや。
チャーシュー!べろぉーん・・・!
べろんべろん・・・べろんべろん・・・!
べろんべろんのチャーシュウゥゥ・・・!
<これほど広ければ・・・!寝れるっ・・・!
子供一人ぐらいまでなら・・・チャーシュー上にて余裕で寝れるっ・・・!>
いけぇっ・・・!
麺・・・いけぇっ・・・!
<あぁっ・・・!>
牛丼屋だから・・・本当は牛丼屋だから・・・!
紅生姜入れ放題っ・・・!
必然的・・・!
入れ放題っ・・・!
行こうか・・・。
紅生姜の果てまで・・・。
『コーヒー』
<やっぱり朝はコーヒーだっ・・・!>
砂糖・・・ミルク・・・!
それを混ぜるスプーンまで付いて・・・!
怒涛の160円っ・・・!
<ありがたいなぁっ・・・!
いやぁ・・・ありがたいっ・・・!>
長い金髪にスーツ。
ホストみたいな格好した男性二人が、
私の後ろでナニカを食べている。
イビキを掻いて寝ていたオジサンに、
「おきゃくさーん」と声をかけて起こす、店長。
なぜ店長だとわかるのか。
十年ほど前、彼がココの店長になったばかりの頃を知っているからだ。
あの頃は絶対に想像できなかった。
十年後の自分が農業をしていて、うどんに嵌って、
それが発端となってネットでブログを書いていて・・・。
書いていたからこそ、大阪から来たお母さんと知り合えて、
意気投合して酒を飲んで、飲む先で素敵な人たちと出会って、
朝こうして「昨夜のシメのやり直しだ!」と息巻いてラーメンを食べているだなんて。
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◆ ぎゅうせん
(高知県高知市帯屋町1丁目)
営業時間/きっと24時間営業
定休日/たぶん無し
(とんこつラーメン490円、コーヒー160円など)
『ぎゅうせん』の場所はココ・・・!