「本日、人手不足で迷惑をおかけするかもしれません」
そのような旨を記した張り紙が店先にあった。
『うどん処 ゆたか』
土曜日の昼どき。ほぼ満席。
わずかに空いていた席に腰を下ろす。
壁にはメニューを記した紙が、
無数に、壁を埋め尽くすように貼られている。
<どれにする・・・どれにっ・・・!>
こういうとき、
迷い始めたら2時間は迷える優柔不断な性格を、
自分が一番よく理解している。
満席の客を相手に、
2人だけで奮闘する店主夫妻。
女将さんが、
水を持って足早に寄ってくる。
恋はあせらなくていいのかもしれないが、
うどんの決定はあせる。
<女将さんが水を置いたタイミング・・・!
そのタイミングで注文しなきゃ・・・!
店のリズムも俺のリズムも狂ってしまう・・・!>
たとえばサッカーでもそうだが、
"連携"するということは、
勝利するために、とても重要なことだ。
それは、混んでいて忙しそうなうどん屋さんおいても同じ。
「はい!お水どうぞ!」の瞬間に、「はい!○○うどんで!」と、
リズム良くパスを返せるかどうか・・・そこに客側の技量が問われる。
店と客がひとつにならなきゃ、
うどんは食べられない。
とにかく私はメニューの決定を急いだ。
すると、「とり天」の3文字に目が留まった。
<とり天・・・!
俺が・・・カキフライと同じぐらい好きな・・・とり天・・・!>
私は女将さんがテーブルの上に水を置いた瞬間に、
リズム良くドモりながら発した。
「とととととと・・・とり天っ・・・!」
(時間の都合で後編へ続く・・・!)
『後編を読む』