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風呂から上がって部屋へ戻る。
夕食。
部屋に仲居さんが来て、
4人分の盆や箸を置いている最中にオカンが言う。
「これ見て!」
「ん?」
と私は言った。
「今日の日付け入りのメニューでぇ!」
一瞬、どういうことかよくわからなくて、
考えているあいだに仲居さんが微笑んで、
それは今日だけのものだから是非、
記念に持って帰ってくれ、と言う。
<なるほど・・・
その日泊まった人のみが
手に出来るメニューというわけか!>
本日限定!
みたいなのに弱い私の心、ときめく。
そして、日頃
うどんばかり食べている農民を、
襲撃する、お料理たち。
・・・を眺めながら、
飲むビールっ・・・!
<ううう・・・うまい・・・!
温泉で火照った体に1日ぶりのビール・・・!
うぉぉ・・・熔けそうだ・・・!>
たくさん飲んでから、
ようやく箸を割る。
「え・・・アンタ・・・
いまからやっと食べ始めゆうが?」
とオカンが言う。
「うん・・・」
と私は言った。
見ると、他3人は、
飲みながら料理を食べている。
<あぁ・・・そうか・・・
ビールとお食事、同時進行するべきなのか・・・!>
静岡名産、
ワサビ登場!
仲居さんが卸してくれる。
「ゴシ!ゴシ!ゴシ!」
仲居さん、速い!
アッと言う間に卸し終えた。
力を入れ過ぎると、ただ辛くなる。
あまり力を入れずに空気を含ませながら
軽く"する"のがコツだと言う。
卸し立てのワサビを付けて食べる、刺身。
「たんだ、かろうないねぇ」
(すごく辛くはないね、みたいな意)
とオバ=アが言う。
「これがチューブのワサビとの違いよ!
本物のワサビは、ただ辛いだけやないき!」
と私は得意げに、
わざとニヤニヤしながらオバ=アに言った。
すると、オカンが笑う。
「竜一、アンタ本物のワサビらぁ
ロクに食べたことないろうがえ!」
「うん・・・」
と言って、また私はニヤニヤした。
かつら剥きして、
トイレットペーパーみたいに巻かれた大根を
箸で持ち上げながら、オカンが言う。
「すごい!これ!
全部繋がっちゅうがで!」
「ちゃっ・・・!」
とオバ=アも感心する。
「こういうのが料理人の腕の見せ所やきに!」
と上から目線で言うオビ=ワンに、
オバ=ア、苦笑。
「知ったような口を聞きゆうけんど!
オジイさん普段、料理らぁひとつもせんやいか!」
「せんこたぁないけんど!
オラが料理したらオマンのすることが無いなるき、
やらんばぁのことよ・・・!」
「オジイさん!そんなこと言うて、
料理らぁ、なんちゃあようせんろうがえ!」
家でも何回か聞いたことがあるこのやり取り。
もはや夫婦漫才のネタみたいなものである。
お馴染みのネタを聞きながら、
私も"トイレットペーパー型大根"を食べてみる。
「おぉ!これエエわぁ・・・!
ビールに合う・・・!」
以降、仲居さんが、
何品かずつ料理を運んできてくれる。
刺身に入っていた、
四角くて赤い小さな物体が何であるかがわからず、
我々4人は議論した。
「マグロの肝やろう・・・!
どうせ心臓とか、そんながじゃ!」
というオビ=ワンの意見に、
他3人が概ね賛同したところで、
料理を運んできた仲居さんに正解を訊いてみる。
「刺身に入っちょった、
四角くて赤いコンマイの!
あれなんですろう・・・?」
と、コテコテの土佐弁で尋ねるオビ=ワン。
「あぁ!あれはコンニャクです!」
仲居さんの返答に、
我々は目を丸くして驚いた。
コンニャク・・・!
圧倒的!コンニャク!
「いかがでしたか?」
と、"肝、改め、コンニャク"の
感想を訊く仲居さんに、私は言った。
「さ・・・魚の味がしました・・・!」
私より年下に見える
若い仲居さんは、可愛らしく笑って言う。
「料理を当てるクイズをされてるんですか?」
「えぇ・・・!
いま、肝や!肝やない!言うて、
結構揉めてました・・・!」
と私も笑った。
米。
仲居さんが、ごはんにさっきのワサビを乗せて、
醤油をかけて食べても美味しいと言うので、そのようにする。
<たしかに旨い・・・!
いくらでもごはんが食べれる・・!
これがあったら、オカズいらんわぁー!>
と私は身も蓋も無いことを心の中で思ったが、
口には出さなかった。
「米がなかなか旨いが、
これはどこの米ぞね・・・?」
と、60年以上に亘って高知で米を作る男、
オビ=ワンが、米の味に感心しながら仲居さんに訊く。
「こちらは修善寺のお米です!」
と仲居さんは言う。
「修善寺ってどこら辺?」
と私はオカンに小声で訊いた。
「ここ!」
とオカンは言った。
<この宿がある場所が修善寺か・・・!>
勉強になった・・・。
オバ=アが食べ切れなかった料理も、
私が全部食べさせていただいて、完食!
オカンとオバ=アは、
夕食前に入った大浴場とは違う露天風呂へ行き、
私とオビ=ワンは宿の中を探検したあと、部屋で焼酎を煽った。
(第10話へ続く!)
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