いったい何がいけなかったのだろう。
いや、いけないことなんて何もなかったんだ。
私はラーメンが食べたかった。
心の底から食べたかった。それも蒸せるほど濃厚で強烈なラーメンが食べたかった。
けれども、私はラーメンを食べなかった。
好きだけど・・・好きって言わないままでいて・・・
結局そのまま・・・どうでもよくなっちゃうことってあるじゃない?
私の中に棲む乙女心がそう言った。
いや・・・むしろ私は乙女なのかもしれない。
いったい何がいけなかったのだろう。
私はラーメンが食べたかったのに、いま現在うどん屋さんの駐車場にいる。
(高知市長浜・さぬき自家製麺・浜心うどん)
私は高級な軽自動車から降りる。
歩いて自動ドアの前に行く。
自動ドアの前に立つ。自動ドアが開く。
<俺が人間だとよく認識できたね・・・!>
と私は自動ドアに語りかける。自動ドアは電子音で答える。「ウィーン」
店の人たちも私が人間だと気付いたみたいで、私に「いらっしゃいませ」と言う。
<自動ドアだけじゃない・・・!
みんなが俺を人間だと認識してくれている・・・!>
ありがたい・・・!
けれども、それは同時に私がまだうどんになれていないことを示す。
はやく・・・うどんになりたい・・・。
いったいどうすれば、うどんになれるのだろう。
ぼんやり考えながらカウンターまで進んで注文する。(浜心はセルフ店)
「玉子かけうどんを・・・」
数時間ぶりに発した自分の声が、自分の声じゃないみたいな変な声で驚く。
いったいどうしたというのだろう。
もしかすると私は半分うどんになってしまっているのかもしれない。
いま発した俺の声の半分は、うどんの声ってことか?
そう考えると、嬉しい。
「天ぷら、いるのあったら揚げるので言うてくださいね」
と店の男性が言う。
セルフレーンのほうを見ると、銀色のトレイが空の状態でいくつか並んでいて、普段ならそのトレイの中にあるはずの天ぷら類がまったくない。
<時間が遅いからか・・・>
と私は思う。時刻はすでに15時をすぎている。
ちく天が欲しい。
しかし頼まない。
揚げるのを待たなければならないかもしれないし。
拵えてくれた玉子かけうどんを受け取ってレジまで進む。お金を払う。
ネギをたっぷり、天カスもたっぷり、生姜は少しだけ盛る。
大きな窓から光が店内に差し込んでいる。
適当な席に腰を下ろす。卓上にある出汁醤油をかける。
混ぜる。玉子がいい具合の半熟になっている。
いったい何がいけなかったのだろう。
いや、いけないことなんて何もなかったんだ。
私はラーメンが食べたかったことなどすっかり忘れて、うどんを食べる。
時の流れるに従って、私の中でラーメンがうどんになったのだろう。
そして、もしかすると、時が流れるに従って、私がうどんになっていくかもしれない。
いったいどうすれば、うどんになれるのだろう。
ぼんやり考えながら私は玉子かけうどんを食べた。
『玉子かけうどん』
(メニュー名が"釜玉"じゃないのは、釜揚げ麺を使用していないからだと思われ。そのためかわからないけれど、食感は釜玉によくあるモチモチ系ではなくシコシコ系)
◆ さぬき自家製麺 浜心うどん
(高知県高知市長浜5640)
営業時間/平日・祝祭日11:00~16:00(LO.15:30)
土日のみ・11:00~20:00(L0.19:30)※麺切れで終了
定休日/無
営業形態/セルフ
駐車場/有(広い)
『浜心うどん』の場所はココっ・・・!