30歳を過ぎて、私はどんどん弱っている。
以前はうどんの「特盛(3玉)」なんて余裕だった。
しかし数ヶ月前に、佐川町のうどん屋『とがの藤家』の特盛で深刻なツラさを味わってから、自分自身の内臓の衰えをハッキリと自覚した。
いくら「とがの藤家」の特盛が、他店の特盛よりも明らかに・・・格段に量が多いとはいえ、私は確実に弱ってきている。
食べれない。以前ほど食が進まない・・・。
ぬぉぉぉっ・・・!俺の食は・・・!
確実に細くなってきているッ・・・!
食券販売機の前に立つ。
『どんぶりころころ』の食券販売機はタッチパネル式だ。
<圧倒的メニュー数だな・・・!>
と私は食券販売機を操作しながら思う。<入口に貼ってあったメニューで見た"唐揚丼"はどこだ・・・>
定食も魅力的だったけれど、初めての『どんぶりころころ』だ。
私は店名にもなっている「どんぶり」を食べることにした。
聞いた話では、ここの「どんぶり」で頭に「びっくり」が付くメニューは、かなり量が多いらしい。
私は30歳を過ぎて食が細くなってきている。
私は私の内臓が完全に衰えてしまう前に、「どんぶりころころ」と勝負がしたかった。
<死線を彷徨うような勝負がしたい・・・が・・・>
私は食券販売機のタッチパネルを指先で叩きながら思案した。<俺は、ころころさんの実力を知らない・・・!いきなり"びっくり"は危険だ・・・!びっくりするような攻撃により叩き潰されてしまうかもしれない・・・!>
ならば・・・あいだだ・・・!
あいだを取るんだ・・・!
あいだを取って・・・!
並でもない・・・びっくりでもない・・・!
「大盛」で勝負だっ・・・!
食券販売機を操作して食べたいメニューを選ぶと、それがそのまま自動的に厨房へ伝わるシステムになっている。
お店の人に食券を渡す必要はない。
それを私は事前の情報で知っていたので、私は迷うことなく、食券を手に、手前から店内の奥まで伸びるカウンター席へ歩いていって腰を下ろした。
けれども座って「唐揚丼」のでき上がりを待つあいだ、ずっと不安だった。
<俺の注文は本当に通っているのだろうか・・・>
背中側にある厨房で、男性の店主が1人、忙しそうに働いている。
しかし訊けない。「僕の注文・・・通っていますか?」とは、なんだか恥ずかしくて訊けない。
他のお客さんが入ってきた。スーツ姿の若い男性だ。
男性は慣れた手つきで食券販売機を操作したあと、私から離れた位置のカウンター席にそのまま歩いていって腰を下ろした。
<大丈夫・・・ぽい・・・?>
私は少し安心した。<だってあの人・・・俺と同じように店主に何も伝えずに食券を持ったまま座ったし・・・>
注文は通っていると信じて待つ。
男性客が多いのかなと、なんとなく思っていたけれど、店内には若い女性同士の客もいる。
私はカウンターの上に置かれたメニューを観察していた。そのとき店主が言う。
「唐揚丼の大盛でお待ちのお客様ー!」
<きたっ・・・!これは完全に俺・・・!俺の注文・・・!>
厨房のほうへ取りにいく。
最初はコワモテに見えた体格が良い店主が、ニッコリと微笑みながら盆に乗った唐揚丼を渡してくれる。
店主は真顔だとコワモテだが、笑うとイイ人にしか見えない。
(後編へ続く・・・!)
『後編を読む』