『前編を読む』
厨房の中と外を区切るカウンターの一角で、それを受け取って席に戻る。
両手で持った盆を通して、腕にズッシリと重量が伝わってくる。
『唐揚丼(大盛)』
"メガ盛"で有名な「びっくり○○」ほどではないだろうけれど、見た目の迫力はなかなか。
底が深く、高さがあるドンブリ。
直径はiPhone4S(後日紛失、笑)2つ分より、もっとある。
<食べきれるかな・・・>
予想していたとはいえ、明らかに強そうなルックス、不安になる。<大盛を頼んでおいて残す!これは絶対にやっちゃいけない行為!何としてでも食べきらなきゃ・・・!大丈夫だ!これは天下の"びっくり"ではない!大盛なんだ・・・!>
私は割箸を手に取り、ゆっくりとドンブリへ近付く。
それから一面を覆う玉子の黄色い海を切り裂き、ごはん、玉子、そして岩みたいに大きな唐揚げを箸に乗せて、口へ運ぶ。
<ふぉっ・・・!>
唐揚げの香りが口一杯に広がって、次の瞬間には様々な味が複雑に絡み合う。<スパイシーな味付け!あとを引く!これならわりと量をイケるかも・・・!>
唐揚げはフンワリと喉を通過して胃に落ちる。
私は淡々と食べ進む。
ドンブリの内容量は徐々に減り、半量を通過。
<まだまったく大丈夫・・・>
しかし7割~8割ほどの量を食べ終えたとき、唐突に苦しみがやってくる。
<おおおっ・・・!結構お腹にきた・・・!>
だが!私はそれを跳ね返す!<たしかに俺は20代の頃ほど食べれなくなってきている・・・!だがまだこの程度では・・・この程度では・・・!"びっくり"ならまだしも・・・!"大盛"程度ではやられはせん・・・!やられはせんぞっ・・・!!>
大体、掻き込むとダメだ。
私は食べるペースを維持したまま、ゆっくりと食べ続ける。
そして食べながら、呪文でも唱えるように自分に言い聞かせ続ける。
<いっぱい食べて大きくなれ!いっぱい食べて大きくなれ・・・!なるんだろ・・・!?いっぱい食べて大きくなるんだろ・・・!?・・・オマエいっぱい食べて大きくなるんじゃないのかよっ・・・!>
私はうどんの世界でも乗り越え続けてきた・・・。数々の「特盛」を・・・。
ここで「どんぶりころころ」さんの「大盛」で倒されてしまっては、いままで私がうどんの世界で倒してきた「特盛」は何だったのかということになる・・・。
「うどん野郎」として、負けるわけにはいかなかった・・・。
「うどん野郎」として、この戦いに負けるわけにはいかなかった・・・。
<食べる・・・!何が何でも食べきる・・・!
食べきってなる・・・!俺はなる・・・!>
なる・・・!
なってやる・・・!
いまここで・・・!
農業界のドンブリ野郎に、俺はなる・・・!
数々・・・と言うほどでもない、ちょっとした試練を乗り越えて・・・。
ドンブリ野郎・・・!
どんぶりころころ大盛!完食!達成!
(ありがとうございました!
ありがとうございました!)
食べ終わって、食器を店主に返しにいく。
店主は空になった食器に視線を落としたあと、私の顔を見る。
私は心の中で苦笑しながら、店主にテレパシーを送る。
<"びっくり"は僕には無理そうです!>