水色を基調とした鮮やかな配色。
それは私の日常にはない彩りで、この空間が現実でありながら非現実であるかのような、不思議な感覚を覚えた。
テーブルの上に置かれていた伝票とペンを手に取る。
<えぇと・・・ここに注文を書けばいいのか・・・>
『多国籍カフェcóme』が「半セルフ」方式で、少し特殊な注文の仕方をしなければならない、ということは事前に調べてわかっていた。
<もし知らなかったら、かなり戸惑ってただろうな・・・>
と私は想像した。
だが、あるいは多少の戸惑いはあっても、結局それほど大きな混乱はしなかったかもしれない。
テーブルの上に、ちゃんと説明書きを置いてくれているからだ。
「卓上の伝票に、メニュー名(てきとう)と、注文数を記入して頂き、スタッフにお渡しくださいませ。」
説明書きには、そう記載されていた。
私は伝票に「C2(大盛)」と書いた。
おそらくはこれでわかるはずだ。
それからもう一つ、アルファベットと数字の組み合わせを書いた伝票をカウンターへ持っていき、中にいる店のお姉さんに渡す。
<直筆で文字を書くのって、久しぶり・・・>
テーブル席に戻ってから、そう思った。パソコンを使ってほぼ毎日・・・時にはかなりの文章量を書いているけれど、ペンを握ることはない。<考えてみれば、ちょっとしたメモ書きなんかも全部スマホに入力してるもんなぁ・・・>
ゆったりしたテンポのBGMが、店内に流れている。
何というジャンルの曲かもよくわからないが、気だるい暑さの中に流れるそのBGMは心地よい。
「南国の昼下がり」
ふいに頭に浮かんだ、そんな言葉がピッタリはまる。
浮き輪から身体が抜けなくなってしまった人のように。
尚もBGMは、ゆったりと緩やかに流れている。
そんな空間の中で、私は温泉に浸かるカピバラみたいに、ほげほげした。
ほげほげしていると、お姉さんが「C2(大盛)」を持ってきてくれる。
<想像と全然違う・・・!>
「C2(大盛)」とは、『月替わりランチ(大盛)』のことだ。
今月の「月替わりランチ」は、「ガーナ風干しエビと夏野菜の煮込み」
テーブル脇のホワイトボードにも、そう書かれている。
しかしそれにしても、それは私の想像とまったく違った容姿をしていた。
一見、カレーみたいだと思った。
一般的にカレーライスが、ルーとご飯が同じ皿に盛られているように、煮込みとご飯が同じ器に盛られていたからだ。
<でもカレーじゃない・・・!この色はカレーじゃない・・・!なにせカレーの香りがしてこない・・・!>
スプーンですくって口へ運ぶ。
「ぎゃっ・・・!」
私は電気ウナギの電気ショック攻撃を受けた人みたいな声を、小さくあげた。「くぉっ・・・!これ美味しい・・・!」
馬に蹴られたときぐらい、衝撃的だった。
<見た目はカレー!中身は煮込み・・・!その名はガーナ風干しエビと夏野菜の・・・>
だが・・・。<俺が知っている和風な煮込み料理とは違う・・・!味が筑前煮などとはまったく違う・・・!>
そのとき帽子みたいに、"ハッと"した。
<そっ・・・そうか・・・これは俺が基準にしてしまっている和食の煮物とは違うんだ・・・>
これが・・・。
これこそが・・・。(キタキタッ!)
圧倒的・・・!
ガーナ風ッ・・・!
ふんわりとした食感のナス。シャキシャキしたパプリカ。
たくさんの具材が入っている。
それらの周りに、黄色っぽく油が浮いている。
その油は様々な食材の旨味が、溶け出して凝縮されているような味がした。
ナニカのフリカケがかかった、ご飯と一緒に食べる。
「ガーナだ・・・!ガーナの味がして美味しい・・・!」
そのとき私の口の中には、たしかにガーナ共和国が広がり、城などもバッチリ建設されていた。
もちろん、これだけでは終わらない。
せっかくここまできたのだ。
大きくなって帰らないわけにはいかない。
私が伝票に書いた文字は「C2(大盛)」の他に、もう一つあった。
それが「B」というアルファベットだ。
この「B」とは、すなわち『海南鶏飯』のことだ。
「うみみなみとりめし」ではない。「はいなんけいはん」と読むのである。
読み仮名をふってくれているおかげで、私にも読めた。
「ありがたいっ・・・!読み仮名・・・!ありがたいっ・・・!」
メニューの記載によると『海南鶏飯』とは、「シンガポールのチキンライス」なのだそうだ。
だが日本でよく知られる、炒めた鶏とケチャップライスの組み合わせではなく、茹でた鶏と、その出汁で炊いたご飯の組み合わせであるらしい。(ちょっとだけピラフやパエリア風?)
まずは、そのまま鶏から食べる。
<うわぁっ・・・鶏・・・やわらかっ・・・!>
一回噛む。二回噛む。三回目に噛んだとき、鶏は消えていた。
「涼宮鶏ヒの消失」
そんなアニメも脳内で再生される勢いだ。
『海南鶏飯』には、三つのタレが付いていた。
三つのタレの一つをスプーンですくって、ご飯にかける。食べる。
また別のタレをスプーンですくって、ご飯にかける。食べる。
さらに、それをもう一度繰り返す。
酸味が強いタレ。コクが増すタレ。ピリ辛になるタレ。
<こんなに変わるものなのか・・・同じ料理なのに、かけるタレ次第で別の料理みたいになるぞっ・・・!>
私はタレによって激変する味に、「女心と秋の空」という言葉を重ね合わせた。
そうして食べる合間に「セルフ方式で、おかわり自由」とされているスープを取りにいく。
自分で鍋の蓋を開けて、自分で器に注ぐ。
なんだか、ちょっと楽しい。
最初かなり薄味に感じたスープは、料理を食べながら飲むと、ちょうどいい味に思えた。
スープを入れる器は一般的な茶碗ほどの大きさがあるのだけれど、私はゴクゴク飲んでしまい、すぐ空になる。
<どうしよう・・・もう一杯飲んでいいかな・・・>
さっき見たとき、スープは鍋の中にまだたくさんあった。
私は鍋を見つめる。
いいよね・・・!
もう一杯・・・いいよね・・・!
(食後にアイスコーヒー。デザートは自家製の「チョコミントアイスクリーム」だった!)
(ランチメニューは、記事中の2つに、あとはフォー。合計3種の模様!)
◆ 多国籍カフェ cóme(コム)
(高知県高知市前里16-4)
営業時間/土曜11:30~21:00、日曜・月曜11:30~17:00、水曜~金曜18:00~23:30 ※つまりランチは土・日・月のみ。
定休日/火曜日
営業形態/半セルフ(先に卓上にある伝票に注文を書いて店の方に渡す → 水、おしぼり、スープがセルフ、あとは一般店と同じ、料金後払い)
駐車場/無