『前編を読む』
テレビの音声が流れている程度で、比較的静かな店内。
女性の一人客がカウンターで、漫画雑誌を読みながらラーメンをすすっている。
私は麦茶が入ったコップの縁を、ぼんやり見つめていた。
そのとき。
バシューンッッッ・・・！
轟音が響いた。
地鳴りもした。
＜ビックリした・・・！＞
いったい何が起きというのだろう。
音のしたほうを向いた。
大将が踊っていた。
白い生地を左右に伸ばし、空中でブンブン揺らす大将の後ろ姿が見える。
膝を使って上下に、大将自身も揺れている。
指揮者みたい・・・！
と私は思った。
＜指揮している楽曲は・・・アルデンテの調べ・・・！＞
大将は、なおも生地を上下に揺らす。
私はその背中を、口を開けて見つめた。
やがて大将は、両手を頭上に掲げた。
生地が中尾彬のスカーフみたいに、ネジネジの形状に纏まっていく。
＜すごい・・・！＞
心の中で拍手した。
そのとき再び。
バシューンッッッ・・・！
大将が生地を、板に叩き付けた。
私は思わず上体を仰け反らせた。
＜ビックリした！さっきの音はこの音か・・・！＞
豪快なる調べ・・・！
まさに手打ちラーメン・とがの独奏！
迫力満点の演奏にビビッていると、まずは唐揚げがきた。
＜おおっ！美味しそう！迫力もある！＞
私は心の中で歓声を上げた。＜キャベツの千切りが付いているのが、嬉しいじゃないですか・・・！＞
そのときの私の表情は、完全に・・・。
『建もの探訪』の中で、人んちの柱を撫で回しながら目を細める、渡辺篤史だった。
＜いいですねぇ・・・この衣の具合・・・！＞
眺め回してから、唐揚げをかじった。＜おおお・・・肉汁きました！そしてこの柔らかさ！嬉しいなぁ・・・！＞
5個ほど盛られた、唐揚げ。
1個目を食べ終えて、2個目に手を付ける。
＜あぁっ・・やはり・・・！衣の時点で、すでに嬉しいです！＞
唐揚げをありがたく頂いていると、『チャーシュー麺（大盛）』がやってきた。
＜高い・・・！高いなぁ・・・！＞
載せられたチャーシューの高度は、ドンブリの縁よりも上だ。＜素晴らしい高さ！＞
私はチャーシュー麺全体を下から見上げた。
＜富士山！阿蘇山！エベレストいいや、チャーシューマウンテン！＞
大げさだろ、なんて異論は認めない。
箸を構え、ニンマリ微笑む。
＜では登頂を開始させていただきます！＞
マウンテンに箸というピッケルを突き刺し、麺からいく。
＜聞いていたほどには、不揃いじゃないな・・・＞
『とがの』の麺の太さには、バラつきがある。そんな話も聞いていた。
だが実際にはソコソコ揃っていた。
＜でもやっぱり太い麺があったり細い麺があったりするな・・・！＞
しかしそれがいい。＜太さが違うことで食感に変化がつき、単調にならない・・・！＞
速くなったり遅くなったりする。
低音もあれば、高音もある。
そんな音楽のようだ。
『とがの』のラーメンは、音楽だ！
NO MUSIC NO LIFE !
NO TOGANO NO LIFE !
＜スープも変わってる！普通のラーメンにはないような味！＞
チャーシューマウンテン湧き水は、河口湖に流れ込むようにして胃に落ちる。＜スッッッキリしてる！＞
チャーシューに噛り付いていると、『コーンラーメン』がやってきた。
圧倒的・・！
トウモロコシ畑！
代金を払って出ようと、店の入口へ歩いていると、大将がまた「バシューン！」とやっていた。
大将は両手を頭上に掲げ、生地をクルクル捻じりながらコチラを見て、優しく微笑んだ。
ええ感じの人やな、と思った。
◆ 純手打ちラーメン とがの
（高知県高知市本町2-5-13）
営業時間／11:30～15:00、17:30～22:30
定休日／年末年始のみ
駐車場／店の隣？に有るみたい！
ゆっくりケツを押していってね！
