<ストレートでいくか…!
いいや…あえて変化球勝負という手も…!>
小麦をぶっかけ出汁で洗うような、死闘が始まろうとしていた。
高岡郡佐川町。
『とがの藤家』
この斗賀野の地で…
俺を待ち構えていたのは…
山…!!
見たこともないほど…!
高くそびえる山だった…!!
<かけ…ぶっかけ…醤油…釜揚げ…!どの系統の牌を切る…!?>
ここで間違えると、初っ端から状況は一気に暗転。
当然、メニュー選びには慎重を期す。
<モチモチ食感の釜揚げは超危険牌…!前に釜揚げパスタを食べてわかってんだ…!あのとき…ラスト2割を残して彷徨った死線…!あれは今でもトラウマさ…>
メニューを見ていると、
蘇る、様々な思い出。
<食べたメニューの一つ一つに思い出がある…!幸福と悦びの中で苦しみ…しかしそれを乗り越えてきた…素敵な思い出がっ…!>
思わず感傷に耽ってしまい、頬を伝う水滴。涙。
ハンカチを持っていなかったので、服の袖で拭いていると、目が留まった。
ネバネバぶっかけ…!?
<これは…聞いたことがある…たしか納豆と山芋トロロが…ぶっかけ出汁に入った一品と聞いた記憶が…!>
俺は生まれた頃から納豆が大嫌いだった…!
だが…ハタチを過ぎて酒を飲み始めた頃から…食の好みが急激に変わり…突然納豆が大好きになった…!
ククク……
もはや俺に…食べられないものなんかないのだよっ…!!
<納豆が味方してくれれば…あるいは今日は余裕かもしれない…いや…そんな簡単にいくはずがない…きっとまた最初は幸せでも…途中から自分の許容範囲を超えてしまい…苦しむ羽目になるかもしれない…>
それでもいい…!
幸せなときもあれば…!
苦しいときだってある…!
でもそんな苦楽を…!
希望に向かって乗り越えていくのが人生だろっ…!
たまんねぇ…!
茨の道だろう…!!
そうやって注文した『ネバネバぶっかけ』
来るっ…!!
並や中ではダメ…!
特盛…特盛サイズでなきゃ…!
俺は苦しめない…!!
降臨…!
ネバネバぶっかけ特盛…!!
それは…山…!
誰が見ても世界クラス…!!
山頂…霞む…!
8000メートル級のド迫力っ…!!
<ふ…普段より盛ってない…よね……!
こんなに…山脈チックだったっけ……>
後戻りできない。
頼んでしまった以上は、食べきらなければならない。
それが……。
「よう食べんがやったら頼むな!」と言われ、
「お残し厳禁文化」で育った昭和の子の宿命。
高知屈指のうどんの名店と農民の、納豆の粘りをかけた一戦。
それは納豆を混ぜる音と共に、カチャカチャと幕を開けた。
うどん桃源郷…!
とがの藤家で俺を待ち構えていたもの!
それは山っ…!!
『ネバネバぶっかけ』という山…!
その標高……
圧倒的8000メートル…!!
<器の中に…トロロと納豆…>
カチャカチャと納豆を混ぜながら、少し迷った。<どうやって食べればいい…!?>
<浸けるのか…!?かけるのか…!?>
しかし、ぶっかけの形態。
<ぶっかけだったら…名の通り…
大抵…かけて食べる形式のはず…>
だが……!
相手は初対戦のネバぶ…!
<どんな手で攻められるかわかったもんじゃない…ならば…相手の出方を見るのも一つの策…>
よし……!
一旦…浸けよう…!!
トロロと納豆が入った小さな器。
それに、ぶっかけ出汁を注ぎ、箸で三者を混ぜ合わせる。
そして威圧感すら漂わす、とがの藤家のアルデンテ。
高知屈指の手打ちうどんを投入しおおす!
あとはただ……
出汁に身を任せ…食べるだけ…!!
<うおっ…新しい…新しい…世界…見えた…見えたというより…むしろ…新しい世界…入っちゃった…>
新世界…突入…!!
<攻めてくる…納豆の香り…!トロロの香り…!>
しかし!<そんな香り入り乱れる中で…麺の香り…小麦の香り…負けてないどころか…強烈な存在感を放ってくる…!!>
このうどん…!
もはやオーケストラ…!
ドヴォルザークもビックリだ…!!
最初は浸けて食べていた。
しかし手打ちうどん。長い。
<この山と化した特盛を…イチイチ浸けて食べるのも面倒だし…なにせ大変だ…>
だったら…いっそ…!
かけちまえっ…!!
山頂から……!
浴びせかけるっ…!!
納豆…トロロ…!
ぶっかけ出汁…!!
これが……!
これこそが…とがの藤家の……!
粘りの絶頂……!
ネバネバぶっかけっ…!!
混ぜようにも混ぜられない…!
とてつもない山…!
その山を慎重に崩しながら…!
あとはただ…食べるだけ…!
ゆっくり喉を通り…!
胃に落ちる…!
小麦の香りが鼻から抜ける…!
シッカリした太さがあるのに…!
あまり噛まなくても呑めてしまう…!
なんでしょう!この感じ!
アルデンテ!
スゴイネンテ!
幸福の中で悶え…苦しみながら…!
苦しみながらも悦んで…悦んで…!
はい!悦んで…!
悦びながらの……!
完食………!
ありがたいっ…!!
<やったぁ…!やったぞぉ…!!
一時は…どうなることかと思ったが…乗り越えた…あの巨大な山を…登りきった…!!>
通常ならば、これで帰るところ。
だが、このとき私はまったく別のストーリーを思い描いていた。
まだまだ下山しない…!
いこう………!
大将が麺切れしてしまうまで…!
醤油うどん中盛…!
倍プッシュだっ…!!
のちに伝説として語り継がれ…ない激戦。
ジョジョ立ちして、終わった。
◆ 手打ちうどん とがの藤家
(高知県高岡郡佐川町中組1325-1)
営業時間/11時~17時(麺切れまで)
定休日/火曜日
営業形態/一般店
駐車場/その辺
(肉つけ750円、生しょうゆ450円、ザブザブ550円、タイカレー700円、
釜あげパスタ700円、やさい天うどん550円、中盛50円増、大盛100円増、特盛200円増など)
『手打ちうどんとがの藤家』の場所はココ!