浜辺を歩いていると亀がいた。
亀は案の定、数人の子供たちに囲まれていた。
「こらっ!亀をいじめるんじゃない!」
私がすかさず蚊の羽音ほどの声量で言うと、子供たちはパッと散って行った。
「大丈夫だったかい…怪我はないかい…」
助けた亀に声をかけると、亀は私に深々と頭を下げて礼を述べた。
そして当然、竜宮城へ行く運びとなった。
だが私はそれを断わった。
「だがっ…!
断わるっ……‼︎」
というノリで断わった。
しかし亀は、それでは申し訳が立たないと言う。
竜宮城に行ってくれないのであれば、せめて…と言う。
「せめて…なに…?」
亀に訊くと、亀は叫んだ。
「せめて……!
うどんに行こうじゃないかっ…!」
酒とうどんなら断らないよ、と私は返事した。
亀には、亀オススメのうどん屋があるようだった。
「じゃあ行こうぜ!そのうどん屋…!」
私と亀は意気投合して、うどん屋を目指した。
もちろん亀の背中に揺られて、だ。
<それにしても切り立ってんなぁ…エッジ…!断崖絶壁って感じだ……!>
いったいここはどこだろう。
亀に訊いた。
亀は答えた。
「ここは…"かめや"……!
皆さんご存知…"手打ちうどん・かめや"さ…!」
亀だけに…!
と言い出しそうだったので、私はすぐに亀の口を塞いだ。
エビ天クロス!
クロスカントリー。
『かめや』の『かめうどん(大盛り)』
俗にいう、エビ天ぶっかけ。
「温」と「冷」が選べるということだったので、なんとなく「温」にした。
亀だから、当然そうするだろうことは想定の範囲内だったが、やはり亀も『かめうどん』にした。
カウンターで1人と1匹。
うどんを食べる。
タン!タン!タン!と大将が麺を切る音が奥から聞こえてくる。
ふと見ると、亀の口元にネギが付いていた。
優しい私が取ってあげようとすると、亀は顔の前で手を横に振った。
「気にしなくていいよ!」
それから、いいの?よくないだろう。取ってあげるって!というようなやり取りをひとしきりした。
けれども断固拒否する亀。
「ネギ…取ってくれなくてかまわない…!
ネギ…取ってくれなくてかまわないっ
…!」
「えっ…!取らなくていいの?」
「いいよ!いいよ!取らなくていいよ!」
「いいの…?取らなくていいの…?」
「いいよ…!取らなくていいよ…!ネギ…取らなくてもッッッ…!」
亀は此処ぞとばかりに関西弁で言った。
「かめへん。かめへん」
◆ 手打ちうどん かめや
(高知県高知市海老ノ丸8ー4)
営業時間/11:00~20:00
定休日/月曜日
駐車場/4台