生姜を植える作業が、ようやく終わろうとしていた。
思い起こせば、この1ヶ月ほどのあいだ、生姜を植え続けていた。
<ラーメン食べに行きたい……>
いつもは疲れて外出する気になんてならないのに、今日は少しだけ余力がある。夕方から雨が降り始めて、仕事を早めに切り上げたからだろうか。
『ラーメン食堂 黒まる』
テーブル席に座り、メニューを眺めていると、「つけまる」という記載を見つけた。「つけまる」とは、いわゆる「つけ麺」のことのようだ。
<"黒まる"の…つけ麺……>
通常のラーメンも好きだが、つけ麺も好きだ。つけ麺には通常のラーメンとはまた違った魅力がある。
『つけまる』は、麺と、つけダレだけでなく、トッピングも別盛りにされていた。
小さな器に集結した、様々なトッピングたち。
<可愛い……!>
私はときめいた。
煮玉子が、チャーシューが、ネギが、そこら辺の子犬より可愛い。
<麺も可愛いなぁ……>
生姜を植えすぎて疲れているのだろうか。何もかもが可愛く見える。
可愛いトッピングを可愛いつけダレの中に沈め、そこに可愛い麺を浸けて食べる。
そして、さらに。
『天津飯』も食べる。
<炭水化物を食べながら、炭水化物を食べるこの至福っ……!>
ありがたいっ!
私は食べれる幸せに感謝しながら、お腹をさすった。お腹がわずかに出てきている気がした。
しかしこれは何かの間違いだろう。
私は腹筋に力を入れた。<よし!引っ込んだ>
腹筋の力を抜けば、またお腹は元のように膨らむ。そんなことはわかっている。いいんだ。
「つけまる」も「天津飯」も食べたのだ。これで明日からも頑張って生姜を植えられそうだ。
食べ終えて駐車場に出ると、静かな春の夜に少し肌寒い風が吹いていた。