新しい蕎麦屋ができたと聞いた。これまで高知になかったような蕎麦を出す店だという。
<桟橋のサンプラザの裏……>
高級な軽自動車のハンドルを握り、電車通りから西側へ回り込む。
はつけん!
『つけSOBA GOKU-TUBUSHI -ゴクツブシ-』という強そうな名前のその店は、閑静な住宅街の一角にあった。
店の脇に、一台分のみある駐車場が空いている。
<三年分くらいの運をこれで使ってしまった気もするが…ラッキー!>
だが同時に不安の波が心に押し寄せる。
<大丈夫かな…俺……>初めての店に一人で入店。初めてのデートのときみたいにドキドキした。
意を決して、入口の自動ドアをくぐった。
店内はそれほど広くない。カウンター席が、まばらに二席ほど空いているのが見えたが、あえてそこには座らずに小上がりを選択した。
<出来るだけ人のいないところに……>よく知っている誰かがそうであるように、私のパーソナルスペースも広め。知らない人が側にいる状況が苦手だ。
卓上に置かれたメニューによると、蕎麦は三種類。「肉つけSOBA」「鳥つけSOBA」「つけSOBA」 一般的な蕎麦屋のように「かけ蕎麦」などはない。
いつもは優柔不断だが、この三択は迷わない。
<"肉つけSOBA"はおそらく牛肉…!"鳥つけSOBA"と値段が同じなんだったら…どっちが食べたいとかじゃなくて…単価的に高そうなほう…>
つまり鶏肉ではなく牛肉にするのが、健全な庶民感覚ってもんだろう……!!
さらに、「大盛り無料」と書かれている。
<なにっ…!>健全な庶民、これに食いつく。<だったら大盛りにしたほうが得じゃないか…!>
しかしその下に「(並みでも量は多いです)」とも書かれている。
<待て…ちょっと待て…早まるな俺…!これ、もしかして大盛りにしたら凄まじい量が提供されるパティーンじゃないのか…!>
熟考ののち、怖いので「並み」にすることにした。
提供速度、早め。次回の国会の行方を気にしていると、すぐにきた。
す…すごい!こんな蕎麦、見たことねぇ!
海苔、どっさり。
生卵付き!
ポーカーフェイスを装うも、内心ビビッていた。
<並みでも本当に量が多い…!食べきれなかったらどうしよう…!>
私は子供の頃からお残し厳禁文化で育ったので、出された食事を残すということに強烈な罪悪感を覚えてしまう。残してしまうかもしれないという不安は、恐怖に直結する。
何としてでも食べきらなければならない。
GOKU-TUBUSHIに、潰されるわけにはいかない。
挑む、山っ!
<うぉぉぉぉ……!>
蕎麦をすする音とBGMが静かに響く店内で、私の闘いが始まっていた。
浸けては食べ、浸けては食べる。
<麺、結構固い…!でも固いのが…イイッ…!>
固い。固いからこそ食べ応えも、かなりある。喉を押し広げながら通り、お腹にズッシリと落ちる。
三分の一ほど食べたところで、生卵を投入。甘辛く感じたつけダレの味がまろやかになった。
肉、ネギ、海苔、蕎麦。それらに喰らいつく。
終盤。ペースが落ちてきたところで、卓上に置かれた天カスを入れる。食感に変化がついて最加速。
麺を食べきった。
つけダレを「そば湯」で薄める。
全部飲んだ。
◆ つけSOBA GOKU-TUBUSHI -ゴクツブシ-
(高知県高知市百石町1-13-1)
営業時間/11:30~14:30、17:30~22:00(日曜は20時まで)
定休日/月曜日
駐車場/1台