高知市高須の電車通りに
『ランヤニコット』という店があると知ったのは、つい最近のことだった。
スープカレーで有名な店だという。
<スープカレー…あんまり外で食べたことない…>
考えてみれば、家でも滅多に食べない。
電車通りから店の裏に回り、駐車場に車を停める。
すでに午後二時を過ぎているのに、たくさんの車が入っていて、空きは少ない。
<えらい人気のある店ながやねぇ…!>
店内、入ってすぐのところにショーケースがある。
<ケーキも売りゆうがや……!>
奥にある飲食スペースは、大勢の人で埋まっている。
わずかに空いていた窓際のテーブル席に腰を下ろす。
手書きの可愛らしい字体で書かれたメニューを開く。
するとすぐさま飛び込んでくる、「限定」!魅惑の二文字!
<毎日10食限定……!
シーフードスープカリーだとぉっ…!?>
まだ残っているのだろうか。
<いやしかし…もう時間も時間……!
そしてこの客入り…残っていたらそれこそ奇跡…!>
到底、まだあるとは思えない。
残存の可能性は限りなく低そうだ。
<この「あぶりチャーシュー丼」っていうのもいいがってね!
自家製のチャーシューっていうのがいい………!>
だが、ここはランヤニコット。
スープカレーで有名な店。
<初めてのこの局面で、チャーシュー丼って!
どうながやろう…やっぱりカレー、
食べちょいたほうがえいがやろうか……>
「スープカレー推しの店だから、
初見の今回はカレーを食べてみよう」
そんな考えは毛頭ない。
<正直言って、カレーよりチャーシュー丼が食べたい!
けんどシーフードカレーも捨てがたい……!
なにせ限定10食…!あったら食べたい………!>
心の中で、大葛藤。脂汗が出てくる。
こんなに迷ったのは久しぶりだ。
<わかった…ダメ元で、
シーフードカレーがまだあるか訊いてみて、
なかったらチャーシュー丼にしよう……>
広い店内。
私みたいなのが声を上げても聞こえるわけがない。
目を見開き、
目ヂカラを極限まで込めて、
女性店員さんを見つめる。
しかし、なかなか目が合わない……。
さらに見つめる。
目ヂカラだけではなく、念力も送る。
<早く振り向かないと、
次は怨念を送ることになりますよ!ふぉ…ふぉっ…>
そのとき目が合った!
すかさず、挙手っ!
店員さんをおびき寄せることに成功!
「シーフードカレーって、まだありますか?」
十中八九ないだろう。あるわけがない。
だってもう下手すりゃオヤツの時間だ。
と、ヤサグレていたのだが、
店員さんから返ってきたのは意外な答え。
「ありますよ!」
<えぇー!この客入り…!この時間で……!
たった10食しかないシーフードカレーがまだあるがぁー?>
限定10食………
ホントは30食ぐらいあるがやないがかっ!
(冗談ですよ!冗談!)
とにかく、シーフードカレーはまだ生き残っていたのだ。
「じゃあ!シーフードカレーで!」
と宣言しながらも、心中複雑。
<ホントはチャーシュー丼が食べたかった…。
でも限定10食があるというがやったら……>
ここはっ!引けんっ…!
「いやぁぁー!可愛い…!」
先にきたサラダに思わず歓声を上げてしまう、三十路。
小さい器にギッシリと野菜が詰まっている。
可愛い。むしろありがたい雰囲気さえある。
ムシャムシャと、放牧地のヤギみたいに食べる。
「うメェ~」野菜の味がする。
サラダを食べていると、
毎日限定10食『シーフードカレー』がきた。
石鍋をカレーが満たしていて、
そこからモクモクと白い湯気が上がっている。温泉みたいだ。
「すごいねぇ!これっ!」
目を見張る、三十路。
褐色のスープの中に、エビやアサリ、
ムール貝など、大量の魚介が沈んでいる。
十穀米、バターライス、
春さめから選べるごはんは、十穀米を選択。
カロリーを気にしてそうしただけで、
とくに健康志向が高いだとかそんなことはない。
「グラグラ」と音がするほど湧き返っていて、
誰が見ても熱そうなスープ。
ごはんを浸けて、フーフーして、
火傷に気を付けながら食べる。
<魚介の出汁が出てて、全体的に地中海っ…!>
一つ一つの魚介が、
「地中海ですよー!太平洋ではないですよー!
大西洋でもないですよー!インド洋はちょっと惜しいですね!」
間違いなく、そう言っているのだ。
私には聞こえる。魚介数種の声が。
サバを焼いたとき。
シジミのお味噌汁を作ったとき。
目を閉じてごらん。
「太平洋ですよー!」
「浦戸湾ですよー!」
みんなの声が聞こえてくるよ。
ランヤニコットほか、こちらから