『はなまるうどん』で『台湾まぜうどん』なるメニューが提供されると知ったのは、9月3日のことだった。ネット上に公開された画像では、極めて攻撃的で個性的なルックスをしたうどんに見えた。
<やっときたっ…!ジャンクなうどん!>
中央に生卵が載っていて、周りをおもに緑と褐色の具材が埋めている。<何年も前から待っていた。こんなうどんを…>
近年、ラーメンの世界においては、いわゆる二郎系や油そばなど、これまでのラーメンの概念を覆したような、おおよそウチの爺婆は嫌がるであろうラーメンが登場している。
それに対してうどんは、創作うどんというようなものはあっても、わりと保守的な挑戦にとどまっていたように思う。
だがしかし、ついに「これは!」と気分が明るくなるような仕様のうどんに出会ってしまったのだ。
パソコンのモニターの前で歓喜してから1週間後の9月10日。発売日に駆け付けた『はなまるうどん 高知インター店』
常日頃、新しいメニューが発売されると知っていても、発売日に食べに行ったりする習慣はない。昔から新作ゲームソフトを発売日に購入したことはほとんどないし、セブンイレブンが高知に進出してきたときも完璧に無視した(関連記事)。
人がしそうなことをするのがイヤだからだ(そうだよ。性格がねじ曲がってるんだよ。どんなに腕の立つ職人でも真っ直ぐに修復できないほどにね)。
そんな性格の持ち主でも、魅惑の『台湾まぜうどん』には勝てなかった。
店の外壁に掲げられた垂れ幕を見て、テンションが上がる。
<うわぁー!やってるぅー!>
大好きなアーティストのコンサート会場に着くや否や、入場を待つ人々の行列を目にしたときの感覚に似ている。ここにはさすがに行列はないが、垂れ幕がキラキラ光って見える。
車から降りて店内へ足早に駆け込むと、メニューボードの前で暫し悩んだ。
台湾まぜうどんは、2種類ある。「にんにく盛り」と「にんにく抜き」だ。いずれも小580円、中680円(大はメニューに記載されていない)。さらに+100円で「追い飯」という名の、要するに白ごはんを付けるかどうかが選べた。
<台湾まぜうどんって、油そばみたいなもんやないが?>
ラーメンの世界では、『台湾まぜそば』なるものがあり、すでに一般的なものになりつつあるようだ。けれどもそれを食べたことはない。同様の見た目をしている『油そば』なら食べたことがある。
<油そばやったら、ニンニクは入れたほうが絶対美味しい>
追い飯はやめておこう。カロリーが気になる。その代わり…<台湾まぜうどん"大"にしよう>
このあと数時間、自分自身の口臭に悩まされることを承知で「にんにく盛り」を大で注文した。
すると、すぐさまカウンターの向こう側で、店員さんが台湾まぜうどんを作り始めた。載せる具材が多い。ひとつひとつ順番に載せていっているが結構大変そうだ。
<すいません…。忙しそうなときに面倒くさいものを頼んでしもうて…>
トッピングを取ろうか迷ったけれどやめた。具材は充分載っている。
取り放題のおろし生姜をたっぷり載せて席に着くと、病的な視線で一通り眺めた。
<画像の通りのビジュアル。ジャンクなうどん…>
中央の生卵は卵黄のみで、周囲に挽き肉が鎮座。刻み海苔、生ニラ、ネギ、おろしニンニクが載っている。
追加で投入した生姜がジャンク感をより一層高めていて良い雰囲気だ。
卵黄を箸先で潰し、"まぜうどん"らしく、ガシガシ混ぜて食べ始める。
<載っていた茶色い粉は魚粉…?>
鼻から魚の香りが突き抜ける。それが生ニラ、ニンニク、生姜と共に香って、これまでのうどんになかった強烈なパワーを生み出している。
うどんの世界が広がった。
そんな気さえする未曽有っぷり。
良くも悪くも、和を重んじる日本人の「和」。和からはみ出した者を容赦なく叩く「和」から勇気を持って飛び出した作品、そんな感もある。すごいぞ!はなまるうどん!
麺を食べ終えると、まだ大量の挽き肉が器の底に残っていた。
<追い飯、やるべきやったかな…>しかしお腹は見てはいけない次元で、比喩ではなく物理的に膨れている。
黙って挽き肉を掻き込むと店を出た。
その後、歯を磨いたのにもかかわらず、自覚できるほどの強烈なニンニク臭を口から放っていた。
夜になっても、まだ臭い。
覚悟していたこととはいえ、それにしても臭い。
臭い、臭い、と床に就いた。
翌朝起きたときには、もう大丈夫かと思ったが臭い。依然としてニンニクがほのかに香っている。
それでも人は何にでも慣れていく。
臭い……。臭いよ……。でも…この臭いのが……イイっ!
自分自身の体内から染み出るニンニクの香りに前日の台湾まぜうどんを思い出し、無意識に呟いた。
「また食べたい…」
臭いが誘う。再びあの世界へ。