とあるうどん屋のうどんがえらく美味しくて、いわゆる"女麺"と呼ばれるような、軟らかい麺にハマった今年。
その年末。突然硬い麺が食べたくなった。
<硬い麺を出してくれるうどん屋といえばどこだろう>考えた。こういうときの処理速度は速い。頭の中にはうどんデータベースが入っている。
<『かめや』行こうか>『かめや』の麺は硬い。硬いといっても土佐山田の『さかえ』のようなゴム麺とまた違う、ゴチッとした硬さがある。
年末。各地の洗車機も混み合う中、
「『かめや』、入れんのかっ!」高田総統風に言いながら乗り込んだ。
予想外。
十二時台。店先に四台分だけある駐車場。二台分も空いている。
L字型のカウンター席。一番奥に腰を下ろす。
壁に貼られた大きなメニューのほうを振り向き、見渡す。
<釜玉か醤油やな>
今年の十二月は暖かい。冬でも『かけ』が食べたくならない。むしろ釜玉すらも暑い。釜揚げ麺の熱で汗ばみそうだ。
「冷たい醤油、大盛で!」店のお姉さんに注文する。
店の隅の壁にかけられたテレビ。知り合いが出ていた。
「おおっ」と小さく呟き、身を乗り出して観る。
テレビのすぐ下の席で食べていた親子連れ。お母さんがいったい何事かとこちらを見返す。
<いやいや私はあなたを見ているのではなくて、テレビを観ているのだよ。テレビを観るためにはどうしても、あなたのほうを向かなくてはならない。すまぬ。だが知り合いが出ているので、どうしても観たいんだ。むしろこの際、あなたを見ましょうか>
うどんが出てきた。冷たいうどん。醤油を数周回して食べる。
箸で持ち上げると、ずっしり重い。
噛むと硬い。さすがは『かめや』。まさに亀。亀の甲羅みたいに硬い。
うどんズドン。力強い喉越し。喉を押し広げながら通っていく、亀。
あまりの攻撃力に白眼を剥きながら二口目。やはり硬い。噛み切れないくらい。
『かめや』が放つ、亀の弾力。噛めへん。かめ、かめへん。かってぇー!
よいお年を。