魚屋に行ったことのなかった私が初めて「鮮魚店」で刺身を買った話。

2017.05.13

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魚屋に行ったことのなかった私が初めて「鮮魚店」で刺身を買った話。

2017.05.13

鮮魚店に行ったことがあるだろうか。私はほとんどない。

ウチのオバ=ア(祖母)は商店街の魚屋で頻繁に魚を購入するが、日頃、私が魚を買うのは、スーパーマーケットの鮮魚コーナーだ。

だが、前々から夢に見ていた……。

いつか、鮮魚店に行ってみたい。

鮮魚店に「刺身」を買いに行く。

しかし魚屋に行くのは恐ろしかった。完全なるコミュ障である自分が、魚屋さんと円滑に会話をしたのち、無事に魚を購入できるとは到底思えなかった。

心境の変化は、ある日突然起きた。

いつものように、鮮魚店のある鄙びた商店街を車で通りがかった。
「きょうなら、あの魚屋に行けるかもしれない」唐突にそう思ったのだ。

商店街を貫く道路を走る、車の影はまばら。
「道が空いているから行けるかもしれない」

もちろん道路が少々混雑していても、魚屋に車をとめることは、技術的にはそれほど難しくない。けれども「いまなら落ち着いた心境で、魚屋に行けるかもしれない」そんな気がした。

私は魚屋に隣接する駐車場に向けて、ハンドルを切った。すると、そこがまるで通い慣れた店であるかのように、車は滑らかなラインを描いてピタリと停止した。

「大丈夫だろうか……」
少し緊張しながら車を降りて、店舗へ歩く。

店に着いた。
初老の男性が店頭のショーケースを洗浄している。

私に気付くと、男性は「いらっしゃい」と声をかけてくれた。店主さんだ。じつは店先の道路を車で通るたびに、いつもお見かけしていて大体は把握はしていた。

けれども車窓から見慣れたショーケースは、いままさに店主さんの手によって洗浄されている。

"しまった。来る時間が遅すぎたか……"。

ただ店の営業時間は午後7時までと知っている。気持ちの悪い話、午後7時頃に店を閉めている姿を、何年ものあいだ頻繁に目撃してきたからだ。

そのとき時刻は午後5時。閉店にはまだ早い。

"もしかして、売切れかな……"。

一寸、不安に駆られたが、奥にショーケースが見えた。数種類の生魚が入っている。
「大丈夫そうだ……」

しかしどんな魚がショーケースに入っているのか、そこまでは見えない。とりあえず、いま一番食べたい魚の名前をあげた。

「ぶ、ブリ、ないですか?」

すると店主さん。
「ブリはいま脂がのっちゃあせんき、ないねぇ土佐弁で答えてくれる。

"5月はブリの時期じゃないんだ。考えてみれば「寒ブリ」とか、夏のブリは聞くけれど、春のブリは聞かないもんな……"。

残念。だが勉強になった。
「ブリ、いま脂のってないがですか……」私がそう言うと店主さん。

「そうよ。それやったら"ネイリ"とかどうやろうね」

ネイリ?
高知ではよく聞く名の魚だが、調べてみるとそれは「カンパチ」の幼魚をさす高知独特の呼称らしい。

「じゃあ、それにします」と言った直後、ネイリの隣に「キンメダイ」がいるのが見えて、付け加えた。

「あっ!キンメダイもお願いします!」内心感激。キンメダイはすこぶる好きな魚だ。

店主さんがショーケースを開けようとしたとき、店の奥から女性が出てくる。どうやら女将さんらしい。

一部始終を聞いていたようで「ほいたら、ネイリはこの、脂がのったがにしちょくねぇ」と言ってショーケースから出した、生の「ネイリ」を見せてくれる。

おお……。心の中から歓声がもれた。
「ありがとうございます……!」

ビニール袋に購入した鮮魚を入れてくれる。

その袋の中に、魚が温まらないようにと、小さなビニール袋に包んだ氷を入れてくれる女将さん。魚屋では当たり前のことかもしれないけれど、その心遣いがありがたい。

ちなみに、ネイリ、キンメダイ、共に1人前(8切れ分ほど)で400円。合計800円の買い物だった。

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家に持ち帰った、刺身。

▲ 手前が「キンメダイ」、奥が「ネイリ」。

「本当に脂がのっていて、美味しい……!」

何せ感動したのが、身のハリ。
「アゴを押し返す弾力!ピッチピチ!」

うどんも魚も、うまいものは弾力が違うのだ。

魚屋さんだと、スーパーみたいにじっくり魚を選べない感じがして、これまで敬遠していた部分もあったけれど、実際に行ってみるとそんなことはない。

所望したブリがないとなると、ネイリ(カンパチ)はどうかと、すぐさまブリと同じ白身魚を薦めていただけたりして、非常に効率的に買い物ができる。

薦めてくれなかったら、優柔不断な私の場合、ではどうしようかと数分間は無駄に悩んでいたところだ。

ただコミュ力は、やはり必要。

魚屋では、コミュできる奴が有利!

「俺もっと、がんばろう。返す刀で『肉屋さん』にも行ってみたいな……」

竜一、商店街でのコミュ力増進トレーニングは、まだ始まったばかり……。

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