『EP1を読む』 『EP2を読む』
自分の中で最大の難関である"注文"を終えて待つあいだ、
少し店内を見渡してみた。
柔らかな茶色をした木のテーブルとテーブルのあいだには、
天井からアジアチックなデザインの生地が垂れ下がっていて、
それが目隠しとなって、他の客を気にしなくて済む配慮がなされている。
これは私みたいな、内気でネクラで人目が気になる人には嬉しい配慮だ。
生地は壁にも掛けられていて、
赤褐色の色合いの中に動物の刺繍がされていたりと、
いかにもアジアな雰囲気を強く醸し出していて、思わず言葉がこぼれた。
「タイみたい・・・!」
タイに行ったことが無いのに、
タイみたいだと言うのも可笑しな話だが、
私の脳内タイのイメージにピタリと合致したから、"高知のタイ"に認定だ!
そして、いよいよ認定式を執り行おうとしているところに、お姉さんが来た。
<知ってるんだぜ・・・!
これは"サラダ"っていう料理だろ・・・?>
確証は無い、無いがしかし、
おそらく日本でも常日頃から食べられている"あの"サラダだ。
だが、ただのサラダ、
そんじゅそこらのサラダだ!と高を括って挑んだ威勢は束の間。
<コイツはただのサラダなんかじゃねぇ・・・!
幻の切り方・山切りカットによって作られた歯車的キュウリサラダだ・・・!>
いくつか集めて組み合わせると、
上手く噛み合って回り始めそうだった、
キュウリの運命の歯車が。
だがしかし、
キュウリは運命にあらがえず、
私に食べられるのであった。
続いて、1分32秒後に現れた、
自信は無いけれど、コンソメ味なのではないかと感じるスープ。
その中には、自信は無いけれど、鶏肉なのではないかと感じる肉の団子と、
キャベツやネギや、春雨みたいだけれど春雨だと確信が持てない透明の細い麺が沈む。
普段、うどんの出汁やラーメンのスープはレンゲなんてメンドクサイ物は使わずに、
口をドンブリに直接付けて豪快に飲み干す男らしい農民・リューイチなのだけれど、
ここは空気を読み、スプーンを使ってお上品にいただいていると、主役登場。
『パッキーマオ』
あとから知ったのだが、パッキーマオとは、『酔っ払い炒め』という意味らしく、
どうして酔っ払い炒めと付いたのか、までは調べていないし、メンドクサイから調べる気も起きないけれど、
要するに、つまり、危険な香りのする料理名だ!ということだけは察して解る。
見た目には、まったく辛そうじゃない。
辛そうじゃないからこそ、これが"激辛"と謳われる一品であることを忘れて、口いっぱいに頬張る。
口に含んでも辛さを瞬間的には感じず、
ムシャムシャと噛んでいた、ら、世界が回った。
ナニカが脳を強打して、
一瞬、目の前が暗くなりそうな感覚に襲われ、
私は"激辛"の文言を思い出すと共に、確信した。
舐めてかかると潰されるっ・・・!
目の色が変わるのが自分でもわかった。
私は一気に慎重になり、箸で掴む量も初手の5分の1ほどにして食べ進む。
<辛いは辛い、けれども、ただ馬鹿みたいに辛いわけじゃなくて、
素材ひとつひとつの味はちゃんと感じられるような種類の辛さで、美味しい・・・!>
とは言っても、もちろん、
唇ヒリヒリ、舌ビリビリ。
パッキーマオの上には、謎の黒い実が乗っていて、
それが何だかわからないままに、チャレンジ精神で食べてみる。
「モグモグ・・・!」
それはおそらく黒胡椒みたいなナニカ、
もしくは黒胡椒そのものだったみたいで、私は激しく悶絶の言葉を洩らした。
<がはっ・・・!>
パッキーマオを食べ始めた直後にお姉さんが運んできたのは、
四万十鶏を使用しているという『唐揚げ』で、唐揚げを2千万回食べた私でも食べたことが無いような、
フワフワとした独特の食感の衣に包まれていて、鶏は歯応えを残しながらも柔らかいという風な、
相当に珍しく、とても変わった様相の唐揚げだった。
さらに、もう一品来たのだけれど、
コレが何であるのか、私にはわからない。
メニューには記載されていたという気がしないでもない。
けれど、どうしても思い出せないし、
メニューが早々に撤去されてしまった関係で、
ブログ用にいつも撮るメニューの画像も撮れず仕舞い。(※ 撮ってはいるけど公開しない主義)
なんだろう、なんだろう、コレはなんだろうと考えながら口に運ぶと、
豆みたいなのとタマネギなどが入っていて少しピリ辛であるようにも感じたが、
とにかく初めての味で何だかわからない、そんな中、私はひとつの結論に達した。
「コレが何であるか、そんなことはどうでもいい」
たとえコレが、酢和えでも味噌和えでもゴマ和えでも、
そんなことは大した問題じゃない。
コレが本場のタイの味に近いのか遠いのかも分からないし分かるハズもなければ、
大体、私はタイに一度たりとも行ったことすら無いのだから、
本場のタイ料理や、その味なんか、知るわけもない!
それでも『チャン』が香らす匂いや、魅せ知らす雰囲気は、
紛れもなく私がハタチ前後の頃に思い描いていたタイの幻想に結び付くところがあって、
記憶の海を漂う諦めた夢の続きを見ているみたいな、強い感覚を覚えたし、
単純に美味いから、コレが何だとか本場だとか何とかそんなこと、どうでもいいのだ。
パッキーマオに付けた『Cセット』は、
食後にデザートかコーヒーかチャイを選べるようになっていて、
私は即答で『チャイ』、温・冷は「冷」を選択した。
チャイという飲み物は、東南アジアを旅した作家の紀行文に、
必ずと言っていいほどの確率で登場する飲み物で、
好きだという風に書いている作家と嫌いだという風に書いている作家と、
好みが真っ二つに分かれていると以前から感じていて、
機会があったら自分も飲んでみて、どんなものだか味わいたいと思っていたからだ。
実際に飲んだチャイは、日本で飲むチャイだから日本人向けに味を変えてあるのかもしれないけれど、
噂ほど甘くなく、夏の暑い日に飲んだら気持ちが良さそうな、鋭い冷涼感を感じさせた。
『レッドカレー』
「本日のオススメ」と記載されていた品。
パッキーマオほどは辛くないが、スパイシーで"いかにも!"なアジア風味。
米の一粒一粒がやたらと細長かったから、
もしやと思い、帰ってから調べてみると、やはりタイ米を使用しているということだった。
会計は中で繋がっている隣の『東印度公司』でするシステムになっていて、
そこで売っている服や雑貨を一通り見てから店を出る。
東南アジア料理店らしい雰囲気の『カフェ・チャン』で、
なにやらわからない料理を、なにやらわからないまま食べて、「なんだろうこれは!」と考えて・・・。
かつて見た夢の続きを少しだけ見れた気がして、なんだか嬉しかった。
◆ cafe chang (カフェ・チャン)
(高知県高知市帯屋町2丁目2-23)
営業時間/
昼・11時30分~15時
夜・17時30分~23時(22時30分ラストオーダー)
定休日/日曜・祭日
駐車場/無
(パッキーマオ680円、レッドカレー680円、Cセット・左記に+400円など)
『cafe chang(カフェ・チャン)』の場所はココ・・・!
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