「F1」みたいに力強く加速する、本当の高級車。
圧倒的な馬力を体感しながら、私はまた山雀さんと共に、
"あの"駐車場を目指していた。
着くと、すでに夏子さん一家が到着していて、
山雀さん竜一コンビ、優勝を逃す、2位。
敗因は、明らかに、
私が支度に手間取ったことによる、スタートの出遅れ。
<申し訳ない・・・これで選手権の行方がまたわからなくなってしまった・・・>
などと思いながら車を降りると、とうやくさんが現れた。
いつもと違う、「働く男」の服装で、なんだかカッコイイ。
早速、私は、まだ誰も飲んでいない中で、
味がわからないものを他人に薦めるわけにはいかないから、味見のために、
持参したビールを一人で勝手にゴクゴク飲んで、500ml缶を空にした。
<ビール代を稼ぐんは大変やけど、飲むのは一瞬よ>
そうしていると、山雀さんの手打ちうどん講習が始まる。
これは、最近うどん打ちに目覚めているという、
夏子さんの「ダンナちゃん」のためのものだが、
私も滅多に見れない匠の技を、シッカリと観察。
「トン!トン!トン!トン!トン!」
軽快な麺切りのリズムが響き渡る中、
真剣な表情で山雀さんの話を聞く、夏子さん夫妻。
真剣な表情で、早くも2本目のビールをゴクゴクする、竜一先生(アルチュー)。
やがて打ちあがった白い麺たちは、釜で湯掻かれる。
釜から立ち昇る温かな湯気を
浴びながら飲む冷たいビールが、また最高。
数分ののち、茹で上がった麺は水で締められる。
出来上がった幻のうどんは、
雪化粧した北アルプスの夜明けのように、
一玉一玉が、白く瑞々しく輝いていた。
『幻の山雀うどん(ぶっかけ)』
「かけ」や「釜玉」も可能だったが、
まだ日が暮れず、気温も高かったので、
サッパリと「ぶっかけ」でいただく。
「JA生姜部会」のPRのために書かさせていただくが、
生姜は、もちろん竜一産生姜!である。
そのとき、ふと見ると、
夏子さんが麺を持ち上げて撮影しているではないか。
<これを撮影すれば、楽っ・・・!>
そのことに瞬間的に気が付いたとき、
自分でも天才じゃないかと思った。
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、カメラを向ける。
<あぁっ・・・それにしても他人に持ち上げてもらうと、楽っ・・・!>
圧倒的・・・!
他力本願・・・!
今回の山雀うどんは、粉の配合がいつもと違うらしいのだけれど、
見ると、たしかにこれまでよりも麺に"縮れ"がある様相。
その縮れが、ぶっかけ出汁を連れて来る!
食感クニュリ。
喉越しブルンブルン!!
「美味しいっ・・・!」
粉が変わると、同じ人が打っても、やはりまた違う感じになるのだなぁと、
粉のことは、まったくわからないが、うどんの奥深さを垣間見た気がして面白かった。
そして!さらに!裏うどん!
とうやくさんのうどんをいただく!
『とうやくうどん(かけ)』
ツルツルと食べて飲み込んだ瞬間、
瞳孔が開いた。
旨いっ・・・!
思わず本人に、「これはとうやくさんが打ったうどんですか?」と確認すると、
「そうやけど、どうした?不味いか?」と、漂々とした表情で、
いかにも、とうやくさんらしい感じで返されて、苦笑。
慌てて、「いやいやいや・・・美味しいです・・・!」
などと取り繕ったのは言うまでもない。
ともあれ、とにかく本当にお世辞じゃなく、美味しかった。
裏うどんに続いて、
さらに美味しいもの連打。
『ばあばのチラシ寿司』
夏子さん一家と共に来ていた、夏子さんの「ばあば」
つまり、ダンナちゃんのオカンにあたる人が作ったチラシ寿司。
これがこれが!
ムシャムシャと食べた瞬間、
モンゴルの草原を走る馬のごとく、
フワッと軽やかに駆け抜ける柚子風味・・・!
そのあと、お米の甘みがジンワリと染み出てくる、
圧倒的ばあばの攻撃力・・・!
孫の私が言うと説得力が無いが、
実は、ウチのオバ=アもチラシ寿司が得意で、
なかなか美味しいと思うのだけれど、
ウチのオバ=アが柚子をゴギンゴギン効かせるのに対して、
夏子さんちの「ばあば」のチラシ寿司は、酸味が軽快で、
オバ=アのそれとはまた違った美味しさ!
それぞれの婆さんに、それぞれの旨さがある。
(竜一先生・名言集より)
やはり、今みたいに、
お金さえ払えば簡単に買い食いが出来る時代とは違う、
戦後の、それも料理しようにも食材自体がロクに無い中で、
なんとかして毎日を生きて行かなければならなかった
とオバ=アも言うが、この年代の人は、本当に料理が上手。
ビールを飲んで焼酎も飲んで、
うどんを食べて、チラシ寿司も食べて、
めくるめく幸せを味わいながら、夜は更けてゆく。
(後編へつづく・・・!)
『後編を読む』