<カツ丼だけじゃバランスが悪いかな・・・>
三十を過ぎた僕は、少しだけ自分の体を気を使う。<サラダも頼もう・・・>
夜の『かつや 高知インター店』
おそらく十年前とか・・・ここがオープンした当初から、通りすがり、横目に見ていたけれど、実際に中へ入るのは初めて。
なかなかたくさんのお客さんがいる店内。
「すいませぇーん」聞こえない。
「すいませぇーん」聞こえない。
蚊の羽音ほどである僕の声は、なかなか店員さんに拾ってもらえない。
3度目の「すいませぇーん」で、ようやく拾ってもらえる。
駆け寄ってきてくれたお兄さんに注文する。
注文するときの自分の声は、さっきより大きく感じる。
ハエの羽音ほどに聞こえる。
<どうしてこの声量を"呼び寄せの場面"で発揮できなかったッ・・・!>
いったいどうして遠くにいる相手には蚊の羽音で、近くにいる相手にはハエの羽音なのだろう。僕にもわからない。
数分後。
バランスを取るために頼んだ、100円のサラダが先に来る。
店のお兄さんはサラダと一緒に、小袋に入った「青じそドレッシング」を置いて去っていく。
<こういう攻め手か・・・!>
と僕は思う。<斬新ッ・・・!>
ほむほむ。
僕は「青じそドレッシング」を手に取り、サラダにかけようとする。
そのとき・・・だ・・・!
おそらく「胡麻ドレッシング」が入っているに違いない容器。
それが卓上に置かれているのが目に入る。
<胡麻ドレッシングもあるのか・・・!>
僕は迷わない。<青じそか!胡麻ならば・・・!俺は完全に胡麻派だッ・・・!>
僕は迷わず、胡麻ドレッシングをサラダにかける。
胡麻ドレッシングをかけられたサラダは、美しい。
「生きろ。そなたは美しい・・・」
ジブリの映画「もののけ姫」の中に出てきたセリフの文字列を、僕は頭の中になんとなく並べる。
80グラムロース2枚を使用したという『カツ丼(松)』が現れたのは、それからさらに数分後。
同じ盆には、一緒に注文した『とん汁(大)』が仲よく並んでいる。
男らしいカツ丼。
そして「とん汁(大)」
圧巻の容量。攻撃力。そんじゅそこらの溜め池より大きい。
とん汁を一口飲んでおいて、カツ丼に箸を向ける。
お肉ッッッ・・・!
ブッ厚ッッッ・・・!
<シッカリした味付け・・・!
肉ッ・・・肉ッ・・・肉の総攻撃・・・!>
ごはんは、かなり軟らかめに炊かれている。
卓上。壷に入った漬物が、牛丼チェーンの「紅生姜」みたいに置かれている。
それを小皿に取って、箸休めに食べてみる。
<大根・・・!>
僕はポリポリとカジリながら、そう思う。<結構イケる・・・!>
「カツ丼(松)」一辺倒だと、食べ飽きてしまってツラかったはずの状況を、漬物が救う。
漬物は、俺を救う。
僕は漬物に感謝しながら、初めての「かつや」をあとにする。
男性が多いのかな、と当初は思っていた。
けれども、そんなことはなく、客層は幅広い。
若者やオジサン、子供を含めた家族連れから白髪の年配のご夫婦まで、老若男女が大挙してカツをムシャムシャ食べている。
みんなトンカツ、好きなんだねぇ。
◆ かつや 高知インター店
(高知県高知市杉井流64-1)
営業時間/10:30~深夜1:00 LO/深夜0:30
定休日/無
駐車場/有