うどんを出す喫茶店がある。
うどんを出す喫茶店というのは、日本中にたくさんあるけれど、その店のうどんに対する力の入れ具合は他の店と違っていた。
まず第一に、店先の駐車場にある看板には「手打うどん」と書かれている。
さらにメニューにも、通常のメニューとは別に「うどんメニュー」があるのだ。
うどんに力を入れていない喫茶店が、「うどんメニュー」なんてものを、わざわざ拵えるだろうか。
そのことから考えても、相当うどんに力を入れていて、相当にうどんを推していることが伺える。
そんな、うどん推しの喫茶店。
『ファミリー喫茶 シーランド』に着いたのは、14時頃だった。
昼食を取るには遅い時間だが、店内には男性の一人客が何人かいた。
私は一番奥の席に腰を下ろした。
よい具合に草臥れたソファーが私のお尻を包み込む。んーたまらん。
博学な私は、早速、脳内で難解な数式を解いてみようとする。
しかし数式なんか、一桁の足し算ぐらいしか思い浮かばない。
やれやれ。これじゃあ博学じゃなくて、"薄学"じゃないか・・・。
我ながら上手いことを言うものだ、と自画自賛した。
店のマダムがメニューを持ってきてくれる。
いつも通り、通常のメニューとは別に「うどんメニュー」がある。
私は通常のメニューなど見ずに、うどんメニューの中から『ぶっかけうどん』を選出して、マダムに伝えた。
<シーランドの冷たいうどん・・・食べたことがないんだよなぁ・・・>
最初から、"ぶっかけ"にする予定だった。
メニューを見たのも、記載が前回に訪問したときと同じであるか、それを確認にしたに過ぎなかった。
<ぶっかけの出汁・・・甘めかな・・・>
私は脳内で、ぶっかけの味を想像する。<いいやシーランドのことだ・・・案外意表を突いた、締まった味わいの出汁かもしれない>
盛り上がる心中。
エサを待つ犬みたいな心境である。わんわんお。
<まだかなーまだかなー!ぶっかけまだかなー!>
私の心は乙女心みたいに、ときめいていた。
そのとき・・・だ。
先ほどのマダムが申し訳なさそうな表情を浮かべてコチラに歩いてきた。
「すみませぇーん・・・」
とマダムは私に言う。なにか予期せぬことが起きたようだ。
<ははぁーん・・・おそらくぶっかけ出汁が切れたんだな・・・!>
マダムの雰囲気から、私は即座に予測した。なぜならばマダムは、ぶっかけ出汁が切れた人間特有の雰囲気を漂わせているからだ。
(温かいおうどんやったらできるんですけど・・・)
私はマダムが次に言いそうなセリフを、マダムよりも先に頭の中で言った。さすがは薄学。頭の回転力が違う。
<それならば、"からあげうどん"にしてやろう・・・>
と私の思考は変更先のメニューにさえ達していた。
だが・・・。
マダムの口から繰り出されたのは、私の想像の遥か上をいくセリフだった。
「すいません・・・今日はもう・・・うどんが切れてしもうたみたいなんですよぉー・・・」
<ま・・・ままま・・・!>
薄学の脳内が、瞬間的に混乱する。
まさかの麺切れっ・・・!
<しまった・・・!最近どこのうどん屋さんでも麺切れに遭遇していなかったから、油断していた・・・!そうきたかっ・・・そういうパターンだったかっ・・・!>
私は愕然とした。
「麺類は他に・・・あぁ・・・焼そばやったらできますよ!」
そう言ってマダムは焼そばを薦めてくれる。
<うぐっ・・・たしかに同じ麺類だけど・・・マダム・・・うどんと焼そばは・・・ち・・・!違う・・・>
通常のメニューから、ラーメンやスパゲティを探してみたけれど、『シーランド』にはないようだ。
うどんメニューは充実しているのに、こうして見てみると、うどん以外の麺類が『焼そば』しかないのは意外だった。
私はマダムに言った。
「じゃあ、カツ丼で・・・!」
目に付いたメニューの中で、食べたいものを注文しただけ・・・。それだけだった。
けれども、これがある意味では功を奏した。
数分後にマダムが運んできてくれた『カツ丼』
蓋を開けると、白い湯気がモクモクと立ち昇る。
それを黙々と食べる。出汁が効いていて、とても美味しい。
<うどんを食べられなかったのは、それはそれでよかったのかもしれないな・・・>
と私は思う。<おかげでシーランドのカツ丼が美味しいということを知れたッ・・・!そしてそれを食べることができたッ・・・!>
人生、なるようになるものである。
◆ ファミリー喫茶 シーランド
(高知県高知市仁井田1612−12)
営業時間/8時~16時 ※11時まではモーニングタイム(うろ覚えなので要確認)
定休日/日曜・第2第4土曜(Gちゃさんのブログからコピペ、笑)
営業形態/喫茶店
駐車場/有
(からあげうどん700円、かきあげうどん580円など)
『ファミリー喫茶シーランド』の場所はココ・・・!