『なか卯 32号高知葛島店』
梅雨の合間。快晴。
パソコンのペイントソフトで塗り潰したみたいに
水色一色の空が広がっていた。
<あー、お腹空いた……>
車から降りて、ヨタヨタと入口へ歩み寄る。
先日、通りがかったとき、
店先の"のぼり"に書かれていた、
『冷やし坦々うどん』
それが食べたくてここにきた。
食券制のなか卯。
入ってすぐの券売機で食券を買う。
<喋らなくても注文できる……
コミュ障には最高のシステム……!>
がっ!
なか卯に滅多に来ない竜一。
わりと苦戦。
<ちくしょー!
冷やし坦々うどんのボタンが
どこにあるのかわからねぇ!>
すでに午後3時を回っていた。
店内に先客は一人もいない。
<お昼時に来なくて本当によかった…>
1台しかない券売機。
<後方に並ばれて
プレッシャーをかけられたんじゃ
たまったもんじゃない………>
なか卯のうどんに「大盛」はない。
なぜか、ない。
<うどんだけじゃ…もちろん足りない…
一緒に親子丼が食べたいな………
親子丼のミニにするか………>
いや…待て……!
「冷やし坦々うどんの並」と「親子丼のミニ」!
そんなんでお腹が張るかっ………!?
<張るわけがない………!
その程度でお腹が張るなんて……
どんだけ小食なんだという話になる…!>
だったら親子丼を並にするかっ…?
<冷やし坦々うどんの並と…
親子丼の並………!
悪くない…それなら妥当…!>
って………!
俺は何を言っているんだ……?
妥当……だとっ………?
無難にいくことに何の意味がある……?
ここは攻めるべき………!
なか卯で普通に食事して……!
ごちそう様でした!また来ます!
いるか……!
そんな普通っ……!!
平穏なお昼ごはん!
必要ないっ………!!
常に危険なお昼ごはん……!
胃袋の限界に挑戦する…圧倒的昼食…!!
それでこそ俺……!
腹12分目っ……!!!
ここは親子丼大盛………!
それしかないっ………!
みなぎる決意。
渾身の勢いで買った食券を店員さんに渡す。
「すっ……すいません…これ……」
心の中は、すこぶる強気。
だが口から出る言葉は死ぬほど弱気。
どうしてこうなるんだろう。私にもわからない。
なか卯。
これぞファストフード。
食券を渡してから3分もかかっただろうか。
早い。店内の壁の雰囲気を確認していると、もう来た。
『5種野菜の冷やし坦々うどん』
冷やし坦々うどんには2種類あり、
通常の490円の『冷やし坦々うどん』に60円上乗せするだけで、
「5種野菜」を載せられるということで、奮発。グレードアップした。
ヘルシーさとか、
そんなことが目的じゃない。
野菜を載せることで立体感を出すと、
うどんの外観の強さが増す。
買ったのさ………!
60円で迫力を………!
<料理ってのは…やっぱりルックスも大事…!
どうせなら…強いヤツと戦いたい……!>
団子状になった挽肉。
食べると襲ってくる、坦々。
ごま感、強め。
激しめ。
想像以上に細い麺。
ちゅるんちゅるん。
ちゅるんちゅるん。
そんじょそこらの冷麦。
あるいは冷やし中華みたいな、のど越し。
<いいねぇ……
暑くなってきたら、こういう細麺!食べ易い!>
北極くらい冷やしたソーメンつゆに浸けても、
わりとイケるのではないだろうか。
錦糸玉子、ネギ、スマキ、
おろし生姜でツルっといきたい麺だなぁ。
『親子丼・大盛(550円)』には『とん汁(160円)』を付けた。
不思議な感じの半熟玉子。
濃いめの味。
「ぼく!たまごおうじ!恥ずかしいぃぃぃぃぃ」
というストライクゾーンの狭いネタを、
ふと思い出してしまった。
静かで穏やかな、なか卯の店内。
<動物園のトラとかも今頃寝ているんだろうなぁ>
黙々と完食。
無言で注文して、無言で食べて、無言で帰る。
コミュ障には最適なお店。ありがとう。