よっしゃあ!うどん行こうぜぇー!
勢いよく『カフェ オルソン』を飛び出した。
すごく勢いが付いている。
勢い余って…とは、こういうことを言うのだろう。
気が付けば車で二時間半、
四万十町十和まで来てしまっていた。
休憩がてら寄った『道の駅 四万十とおわ』の販売所を出て、四万十川を眺める。
<随分遠いところまで来たもんだ。
この辺りにはうどん屋もなさそうだ。そろそろ帰るか…>
って…………!
不意に思い出した。
<そういえばこの駐車場の端に、
「うどん」と書いたのぼりが立っていた記憶が…!>
一歩も歩きたくないほどの暑さだった。
車に乗って駐車場の中を移動した。
駐車場の端まで行くと、
見覚えのある木造の建物が建っていた。
出入口に紺色の生地に白で
「うどん」と書かれた暖簾がかかっている。
<ここだ……>
ふり返ると、さっきまでいた道の駅が遥か彼方に見える。
<あちらからこちらまで車で来て本当に良かった。
この暑さ、この身体で、絶対に歩きたくない距離だ>
暑い。本当に暑い。
風もまったく吹いていない。
釜の中で湯がかれるうどんになったみたいだ。
十和は、釜揚げうどんみたいな熱気に包まれている。
出入口まで、あと二歩半という位置に立っていたメニューボードの前で足を止めた。
うどん、うどん、うどんと書かれている。
嬉しくなってしまい、変な声が漏れた。
「うっひっひっ………!」
午後三時。
朝食が遅かったこともあり、あまりお腹はへっていない。
それでも食べたい。
「食べてるときが一番幸せっ…!」
心の中で、何か、
タガが外れようとしていた。
「いっぱい食べておおきくなります」
おそらく照明が点いていなかった。
やや暗めの店内。
柔らかな自然光が射し込んでいる。
一枚板の大きなテーブル席に座ると、
可愛らしい女性の店員さんが、冷たいお茶がある場所を示してくれた。
お茶はセルフサービスの模様。
額から落ちる汗を自前のハンドタオルで拭い、取ってきたお茶を一口。
口から食道を通って胃へ。
冷涼感が全身を駆け巡る。
<ありがたい………>
大型の扇風機はあるが、エアコンがない店内。
窓から入る風もないので、正直言ってかなり暑い。
「暑いときこそ熱いものを」
と、よくいう。しかしいまは絶対に熱いうどんは無理だ。
幸い、メニューの記載によると、
6種類あるうどんは月見うどんを除く、
ほかすべてで「温」「冷」が選べる雰囲気。
<ここで食べるなら、これしかないよな>
「かっぱうどん」を注文した。川海苔を使ったうどんらしい。
窓のすぐ外を、高名な四万十川が流れている。
青い川、青い空、緑の山。青と緑の世界。
戦争、テロ、利権、金、出世。
つまらないことで争う人類を嘲笑するように、
四万十川はのんびりと水を流している。
<今日の俺、なんか悟り、開いちゃってるんじゃね?>
などと思っていると『かっぱうどん』が来た。
うどんの上にコーンが載っている。
<このパティーン……初めて………!>
コーン、トウモロコシ。
高知では「キビ」と呼ばれたりもするそれを、しげしげ眺める。
<俺のまだ知らない世界が、
土佐の山間に広がっていたとは……!
恐るべき高知うどん…………!>
川海苔が練り込まれているという、緑色した麺。
食べると海苔の豊かな香りが口の中に広がってくる!
「四万十川を食べているみたいだ……!」
さすがは「名言メーカー」と呼ばれる私だ。
この局面、またイケてる名言を口走ってしまった。
想像していたよりも、ずっと弾力のある麺。
噛み応え、喉越し。結構強い。
濃いめの出汁の中で、コーンの甘さが光る。
当初、なぜコーン?と思ったが、食べてみてわかった。
このパッケージにはコーンが必要だ。
野球で言うと、
大した打率も残せないのはわかっているけれど、スタメンで使う。
守備的なことを考えると、打てなくても居てほしい。
そういう選手。それがコーンだ!!
『キツネうどん(冷)』
高知市万々の「ゆたか」同様、透明な器が風流。
冷たいうどんに冷やされて、
食べ終える頃には汗も引いて随分涼しくなり、
圧倒的冷涼感を感じていた。
車に乗り、冷房を出力最大でかけ、
また道の駅の建物の前まで駐車場の中を走行し、
ソフトクリームがある売店の付近で停車。
真夏の冷やかけ。
真夏のソフトクリーム。
青と緑の四万十町十和。
風は吹かない。
地形が盆地状になっていることも関係しているのか、とにかく暑い。
暑い………。
暑いよ…………。
でも暑いのが……イイっ……!
暑いからこそ味わえる幸せ。
炎天下で飲むビールみたいな幸せ。
十和で噛み締めた。