香南市野市町の老舗レストラン『くりや』は青空の下に佇んでいた。
入口の扉をくぐると女性の店員さんが出てきて、奥の席に案内してくれる。
空いているのはその1卓だけだ。
昼どきはいつも満席。
いつもの『くりや』の風景が広がっていた。
くりやのランチメニュー
8種類あるランチ専用のメニューのほかに、大量のレギュラーメニューが存在し、ランチ時にそれらを注文することも可能となっている『くりや』。
「うどんセットは売り切れか」というより……と考え直した。「くりやは、やっぱ手作りハンバーグとステーキだよなぁ……」
シチューハンバーグとエビフライピラフセット
注文したのは、シチューハンバーグとエビピラフのセット。
サラダとスープが先に来た。
「このスープおいしい……」
言ってしまえば普通のオニオンスープだが、スッキリとした旨味が舌の上に広がっていく。
「くりや、いつもスープがおいしいんだよね」
サラダのドレッシングの仕様が変更されている!?
そのとき違和感を感じた。
「あれ……?」
以前は、サラダと一緒に4種類ほど置いて行ってくれていたドレッシングが2種類に減っている。
周りを見渡すと、どこのテーブルにもドレッシングのボトルが2種類ずつ置かれている。
「そういう仕様に変更したのかな」
まあ、そんなことはどうでもいい…と大して気にもしていなかったが、各々の卓上に置かれたドレッシングのボトルの色に気付いたときハッとする。
「色が違う……」
ボトルの色がそれぞれ違うのだ。法則性はなさそう。
色の種類は、4種類ある……。
そうか………。
「単純にドレッシングが2種類に変更されたわけじゃない……」
いままで4種類あったドレッシングが、ランダムで2種類ずつ配られる仕様に変更されたんだ……!
サラダはドレッシングを含めて「サラダ」というトータルパッケージが完成する……。
……とすれば、
訪れるたびに、違うサラダが食べられる……かもしれないということ!
ある意味、日替わりサラダ……。
この手があったか……!
度肝を抜かれた。使用する野菜を変更しなくても、ドレッシングを変更するだけで「日替わりサラダ」を実現させる手口……。
巧妙っ……!!
「さすがは老舗レストラン。何をしてくるやら、わからない……」
油断大敵の状況下……!
くる……!
メインディッシュ……!!
サイコロステーキとハンバーグのセット
タルタルソースがかかったエビフライ、ピラフ、それに手作りハンバーグが鉄板の上で共演する……
とんでもない豪華セット……!
素晴らしい……。
人類が作った最高傑作だよ……。
おそらくはきっと……。
子どもたちが大好きな構成さ……。
間髪入れずにもう一品……!
サイコロステーキとハンバーグセット
見慣れた「くりや」……!
「くりや」の風景がそこに広がっていた……!
「手作りハンバーグと、サイコロステーキが、鉄板の上でニコニコ笑ってらぁ……」
普通のオニオンスープだが、異常にうまいスープは、このセットでは先出しせず…同時に提供される……。
サラダにおいても同様で、同時に出される……。
「だいぶ機嫌がいいなぁ。このサイコロステーキめ!」私はサイコロステーキを見て微笑んだ。
「心なしか、サイコロステーキも笑ったというか……」
サイコロステーキが私の呼びかけに、反応したような気がした。
そのときハンバーグが喋った。
「やあ!俺はゆで卵をのせたハンバーグさんだ!」
気のせいかと思ったが、どうやらハンバーグは本気で喋っているようだ。
「こっちはサイコロステーキだ!くりやでは主役である俺の2番手といったところだが、いつもがんばっている。モグモグ食べてやってくれ」
……と隣にいるサイコロステーキを紹介してくれる。
私は全部で5切れあるサイコロステーキの一切れを箸でつまむと、ソースにつけて食べた。
「どうだい?」とハンバーグが感想を聞いてくる。
「なかなかおいしいよ」
私の言葉を聞いて残り4切れのサイコロステーキたちは皆、喜びの言葉を口にする。
「ホント?よかった!」
それを見て、ハンバーグは満足げな表情を浮かべている。
さらに、ほかのサイコロステーキも次々に平らげていく。
「付け合わせの野菜…グラッセとか、好きなんだよねぇ」
……などと言いながら、サイコロステーキをどんどん食べていく。
やがてサイコロステーキを一切れだけ残して、あとはすべて平らげてしまった。
「次はハンバーグを食べよう……」
ハンバーグに箸を向ける。
「おっ!ようやく俺の番かい?」ハンバーグは笑っている。しかしどこか切なさが混じった笑顔にも見える。
「おおっ!ハンバーグおいしい!さすが手作り!作った人の愛がこめられている!」
そのまま勢いよく、ハンバーグを完食した。
直後、笑い声が聞こえてくる……。
「はっはっはっはっははっ……」
「なにっ……!?」
視線の先でサイコロステーキが笑っている……。
「ありがとう。ハンバーグを先に食べてくれて……」
「どういうことだよ!」私には何が何やらわからない。
「今頃ハンバーグは、あんたの腹ん中で打ちひしがれているさ……」
この俺に負けたんだからなぁ!
私は愚かにも気が付いていなかった。ハンバーグとサイコロステーキ、『くりや』におけるツートップの関係性に……。
「完食順で先着する、これは我々提供される側の料理にとって重要なこと……」
人気ナンバーワンのハンバーグ様が、晩年ナンバーツーのサイコロステーキに負けるなんざ……
屈辱以外の何ものでもない!
「ハッハッハッハッハハッハハッ!」
食べ順を間違えた。
私はハンバーグのプライドをズタズタにしたあげく、サイコロステーキという勝たせてはいけない者を、勝者へと導いてしまったのだ……。
ハンバーグッッッ!!!
叫んだ。心の中で叫んだ。
ハンバーグへの無念を叫んだ。
叫びながら、一切れだけ残ったサイコロステーキを口に放り込んだ。
これで終わりだ……。
勝者はサイコロステーキ……。
勝ったのはサイコロステーキ……。
鉄板に残った、ハンバーグソースが変形していく……。
次第に、そこにソースの文字ができあがる。
できあがった文字には、お店のナンバーワンからナンバーツーに向けた、愛が刻まれていた……。
"食べ順はあれでいい……。
ありがとう。おかげでサイコロのヤツも自信が付いたはず"
ハンバーグ冥利に尽きるよ……。
私の目からは、自然に涙がこぼれていた……。
ハンバーグッッッ!!!
最後にハンバーグは「俺とサイコロステーキは兄弟弟子なんだ」と言って胃に消えた。
『くりや』で腕を磨く、ハンバーグとサイコロステーキ。
ふたりは、きょうも『くりや』のツートップとして共闘している……。
くりやの特徴まとめ
- くりやといえば「手作りハンバーグ」と「ステーキ」
- オニオンスープは、普通のスープだが異常においしいスープ。
- じつは『くりや』で本当においしいのはオムライス……かもしれない。
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くりやの所在地、営業時間、定休日、駐車場
- 所在地/高知県香南市野市町下井621(地図)
- 営業時間/8:00~22:00(L.O.21:20)
- 定休日/無
- 駐車場/30台
- ■カウンター席/有 ■テーブル席/有 ■座敷/無
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