夜になると辺りを煌々と照らす店。
その店の前を、時々俺は車で通る。
何年ものあいだ、
何度も何度も、その店の前を通った。
通る度、目に付く大きな看板。
窓からこぼれる柔らかな光。
「一度・・・入ってみたい・・・!」
至極当然の流れでそう思い、
ある夜、気が付けば、俺は店前の駐車場に車を停めていた。
『中華料理 鳳来』
少し一階部分が高くなっている。
数段の階段の上に入口。
ガラスの向こう側から溢れ出して来る高級感。
<大丈夫か・・・!
お・・・おおお・・・俺あんまりお金・・・持ってねぇんだが・・・!>
しかし、既に歩みは入口寸前。
<ここまで来たら・・・!
もう店側から俺の侵入が察知されている・・・!
その可能性は否定できない・・・!往々にしてありうる・・・!>
くそっ・・・くそっ・・・!
ダメっ・・・!ダメっ・・・!
<最早・・・ここでやっぱり入るのやめよう・・・!
なんて言える態勢じゃねぇっ・・・!!>
"押される・・・!
竜一・・・急流に押し流されるようにして・・・!"
入店・・・!
一階の席は、ほぼ満席。
階段を上がると、中二階といったようなスペースがあり、そこのテーブル席に座った。
緊張の面持ち、
震える手で開くメニュー。
<ホッ・・・!セーフ・・・!
ビックリするほどの値段じゃねぇ・・・!
これならなんとか・・・凌ぎ切れるかもしれない・・・!>
中華料理屋らしく、メニューが多い。
当然、この局面でも竜一の狙いは、麺。
だが、一口に麺と言っても、十数種はあろうかという勢い。
<これは・・・!普通に考えていたのでは・・・!
オーダー決定までに・・・二年・・・いや三年はかかる・・・!>
その時、竜一気付く。
<ああっ・・・!ああぁっ・・・!
このメニュー・・・店側のおすすめには・・・"おすすめ"と書いてある・・・!
そうか・・・!そのおすすめの中から選べば・・・おそらくは間違いないっ・・・!>
辿り着ける・・・!
至極の一品にっ・・・!
ありがてぇ・・・!
俺みたいな優柔不断が少しでも楽に決められるようにとの配慮・・・!
ありがてぇっ・・・!
よしっ・・・!
「じゃあ・・・!
おすすめじゃない天津メンにしよう・・・!」
天津メンっ・・・!
"竜一がこの局面で選んだ勝負手はよもやの逆心・・・!
鳳来のおすすめに・・・!あえて乗らぬという・・・!"
逆心の勝負手っ・・・!
<クククッ・・・!
ここで素直におすすめに行くほど・・・俺の根性は真っ直ぐじゃねぇ・・・!
あぁ・・・曲がっているのさ・・・俺の根性はグリングリンに捻じ曲がっているのさ・・・!>
フッ・・・!
だけど・・・最後にありったけの点棒をむしり取るのは俺・・・!
「和了りきってやるっ・・・!
想像の彼方から・・・空前絶後の聴牌でっ・・・!」
(後編へ続く・・・!)
『中華料理 鳳来 後編/意表の方式』