高知市瀬戸の閑静な住宅街の中にヒッソリと佇む「雅」
そこに迷わず辿り着くのは至難の業で、
戌年(いぬどし)だから10キロ離れた場所からも出汁の香りを嗅げて、
しかも嗅ぎ分けられる、非常に優れた嗅覚を持つ私ですら、初回はさすがにグーグルマップの力を借りた。
けれども、今回は2度目だ。
<戌年である俺が・・・一度来た場所を忘れるものかね・・・!>
一寸の迷いも無く、完璧なるライン取りでコーナーを曲がりに曲がって、
区間最速のタイムを刻みながら、終点である「雅」に到着。
『めん處 雅』
駐車の仕方が店前に斜め止めであることは、
前回訪ねた際、店のおじさんに確認済み。
だから勝手に斜め止めを、それも高度な"バック"によって敢行していると、
正に"あの"おじさんが店からソソクサと出て来て、「オーライ!オーライ!」などと、
まるで前回のデジャヴみたいに誘導してくれる。
「はい!オッケーでーす!」
そう言うおじさんの声と共に、
私はブレーキペダルを踏んで、愛車の「フェラーリF40」を静止させた。
ドラゴンズ岩瀬の高速スライダーみたいに、斜めに美しい軌道を描いてエグリ込む
華麗なる斜めバック駐車に、「雅」のおじさんとて、いささか感銘を受けた様子で、
「いらしゃいませ!どうぞ!どうぞ!お入りください!」
と、微笑みながら私を店の中に案内してくれる。
「ようこそお越しくださいました、
場所がわかりにくかったでしょ?」
<いや、俺、出汁の香りで、うどん屋の場所がわかるんで・・・!>
などと本当のことを言うと、
"面白くない冗談を言う珍客"と化しそうな雰囲気だったから、
「えぇ・・・まぁ2回目なんでなんとか・・・!」
と、デビュー仕立てのアイドルみたいに可愛らしく答える。
すると、おじさんは一瞬慌てた表情を見せて言った。
「あぁっ・・・それはすいませんでした・・・!
以前来られたことがお有りでしたか・・・!」
<あかーん!気を使わせてしもた・・・!
前回来たの、もう8ヶ月も前だから俺のことなんか覚えてなくて当たり前なんだよ!
それだったらまだ出汁の香りがどうこう言って、ボケかましときゃ良かった・・・!>
「大盛勝負」の前に、私は若干の自己嫌悪に陥ったけれど、
コンマ2秒後には立ち直って、前を向いた。
負けられない戦いが、ここにある。
うどんを食べること、それは勝負っ・・・!