なんという名だったか忘れてしまったが、
「高知大丸」で、日本中の美味しいものが集うイベントが開かれていると聞いて、
私は高知市内でうどんを食べるついでに、高知大丸5階へ向かった。
しかし、そのイベントで販売されていた、見るからに美味しそうな食べ物たちは、
物の価値を「たも屋のうどん○玉分」という基準で、無意識に換算してしまう私にとって、
かなりツライ値段設定がなされていた。
<これがたも屋のかけうどん特大2杯・・・つまり6玉分か・・・!>
そう思い始めたら、もう買えない。
元々、明確に目当ての品があったわけでもなければ、
良いものがあったら買い求めようというぐらいにしか思っていなかったので、
結局、そのイベントは、ただ冷やかしただけであとにした。
だが人生は、偶然の組み合わせによって出来ている。
エスカレーターで5階から1階へ降りて外に出たとき、
私の目に入ったのは、大丸前に掲示された一枚の貼り紙だった。
そこには、いま開催されているイベントは今日までの開催で、
明後日からは、「横浜・中華街展」という、また別のイベントが開催される旨が書かれていた。
高知大丸で「横浜・中華街展」が定期的に行われているということは知っていたが、
いつも大した興味は持たなかった。
けれども、今回の中華街展は違った。
中国の「刀削麺(とうしょうめん)」と呼ばれる、
玉になった生地を包丁で削ぎ落として、それを"麺"としたものが提供されると書かれている。
しかも、これが「杜記(とき)」という、
あとからネットで調べたら、横浜の中華街でも評判の良い店によって振舞われるというのだ。
「wikipedia」の記載を読む限りでは、
刀削麺は、"ラーメン"よりも"うどん"に近いようで、
小麦粉を水で練っただけのものを生地としているらしい。
私は「刀削麺」という言葉を聞いたこと自体が初めだったし、
"伸ばす"や"切る"ではなく、"削ぐ"ことによって生み出される未知の麺に、大いに色めき立った。
この際、「たも屋のうどん○玉分換算」はやめて、
「刀削麺」という大陸の麺を是非とも食べてみたい。
数日後、私は再度、高知大丸を訪ねた。
イベント会場である5階へ上がると、
たくさんの人の熱気が漂い、売り子の声がアチラコチラから飛び交う中を抜けて、
一目散に奥のイートインコーナーを目指した。
イートインコーナーの入口には、すでに多くの人が並んでいた。
私も高知で生まれ育った人間なので、
よく言われる"高知県人気質"そのままに、並んで待つということが物凄く苦痛で、苦手なのだけれど、
ここで待たなければ、刀削麺を食べる機会は、もう一生無いかもしれない。
死に際に、「あのとき大丸で刀削麺を食べておきたかった・・・グフッ」
などと言い残して逝ってしまうのは、あまりにも忍びないではないか。
だから、この局面、
意地でも並んで待つしかない。
待つことこそが、未来の「グフッ」を避けることに繋がるのだ。
(後編へ続く・・・!)
『後編を読む』