私は、初めて食べに来たうどん屋で、
初めて食べる食べ方で、初めて食べるうどんを食べていた。
店の名は「文吉」と書かれていた。
うどんの名は「ドライカレーうどん」と書かれていた。
似た感じの店を挙げられない、独創的な麺だった。
『手打ちうどん 文吉(ぶんきち)』
店の横にあった駐車場に車を停めて中に入った。
"うどん屋"というよりも完全に"喫茶店"という雰囲気だった。
雨が降っていたせいか少し暗めの店内。
印象的だったのは、そこに張り巡らされた木の壁の茶色。
<バンガローみたいな茶色だっ・・・!>
椅子に腰を下ろして、見やるメニュー。
<ぶっかけなど・・・冷たいうどんは少ないが・・・!
温かいうどんの種類は・・・なかなか多い・・・!>
数えた。
19種類あった。
冷たいうどんは7種。
<つまり合計26種・・・!
意想外の群雄割拠っ・・・!>
さらに定食ものなどを含めると、メニュー数はさらに膨れ上がる。
こうなると迷うのは必然。
二年にも感じられるほどの長いあいだ、熟考した。
迷いながら、ふと視線を移すと壁に黄色い紙が貼ってあるのが見えた。
赤い字で、こう書かれていた。
『新メニュー! 賄いドライカレーうどん 600円』
<し・・・ししし・・・新メニュー・・・!
ただでさえ・・・26種でも充分に驚きの品数だったのに・・・!
まさか・・・!こんなツボを押し込むような攻撃的展開・・・!>
仰天・・・!
27種目のうどんは・・・!
張り紙の中にっ・・・!
ドライカレーうどんなんて食べたことがなかった。
だからこそ食べてみたいと思った。
初めて食べに来たうどん屋で、
初めて食べる食べ方で、初めて食べるうどんを食べても良いように思えた。
他にも惹かれるメニューがあったけれど、
結局は、ドライカレーうどんの未知なる魅力に絡め取られてしまった。
『ドライカレーうどん(大盛)』
注文してから数分後に現れたそれは、
全面にカレーが絡められていて、本来は白いはずの麺が黄に染まっている。
<黄の中にピッピッピッピ・・・!
散りばめられた赤・・・ニンジンがいいなぁ・・・!>
これである。
これがドライカレーうどんである。
その食感、異端につき。
<これまでに・・・これと似た雰囲気の麺は経験したことがない・・・!>
未曾有の麺線は、私を容赦なく締め上げる。
ギュウギュウギュウギュウ締め上げる・・・!
<うわぁぁぁっ・・・うわぁぁぁっ・・・!
グルグル巻きっ・・・もはや俺はグルグル巻きっ・・・!>
うどんでグルグル・・・!
グルグル巻き・・・!
麺で心が締め上げられるような感覚・・・!
それはまさに至福・・・!
至福のグルグルっ・・・!
そのとき、私は、
うどんに巻かれていた。
『天ぷらうどん(大盛)』
かけ出汁の入ったうどんで、時々あるのは、
麺と出汁、両方とも良いのだけれど、両者が仲良くない。
つまり、麺を食べたときに同時に出汁を連れてこない。
あくまで麺は麺、出汁は出汁で個々の主張をしあって協奏していない形。
しかし文吉は違った。
文吉の麺の表面には、細かな凹凸が見られた。
その凹凸・・・これがかけ出汁を連れてくる・・・!
<麺が手を差し出して・・・!
"はぁい一緒に行こうねぇ・・・出汁くん一緒に行こうねぇ・・・!"
・・・!言ってんだっ・・・!>
文吉は・・・!
文吉は・・・!
麺と出汁が仲良し・・・!
なかよしこよし・・・!
食べている最中、気が付いた。
テーブルの上に置いたままだったメニューに、
何か書かれているのに気が付いた。
<毎週火曜日は金券配布・・・!?
まさに今日がその火曜日だよっ・・・!>
今年の運をすべて使い果たす・・・!
圧倒的っ・・・!幸運・・・!
帰り際、会計時に、
スタンプカードと、毎週火曜日にだけ配布されるサービス券をいただいた。
<うほぉぉぉ・・・サービス券を貰っちゃったから・・・また来ないとな・・・!
また火曜日に来たら・・・もしかしてこれ・・・金券無限コンボできちゃうのかな・・・!>
にんにん笑いながら高級な軽自動車に乗り込んだ。
◆ 手打ちうどん 文吉
(高知県高知市横浜西町50−22)
営業時間/8時~15時(11時30分まではモーニングタイム)
定休日/無
営業形態/一般店
駐車場/有
(ドライカレーうどん600円、天ぷらうどん600円、かけうどん350円など、大盛100円増、中盛50円増)
「手打ちうどん文吉」の場所はココ・・・!