もう随分と前、十代の頃。
思春期真っ只中だった当時の私には、好きな人がいた。
「竜一君って、好きなものから先に食べるタイプ?
それとも好きなものは、あとに取っておいてから食べるタイプ?」
彼女の唐突な質問に、少し考えて、うつむきながら答えた。
「俺・・・テキトー・・・」
「そうながや!」
クスクスと可愛らしく笑いながらそう言う彼女の姿が、
淡い思い出として今も脳裏に焼き付いている。
あれから十数年。
相変わらず私は、先に食べるとか、あとから食べるとか、
なんにもコダワリが無く、まったくテキトーで自堕落な毎日を送っている。
そんな私が、うどんを食べ歩く際にだけ、唯一こだわっていること。
それが、
「行く先々の店で、その店のメニューに記載されている最大量を注文する」
ということである。
そういう縛りを自分に課しているからこそ、
数あるうどん屋さんとの激戦の中では、何度か逝きそうになったことがある。
「うどんを食べ歩きは遊びじゃない・・・!」
いや、正確には遊びだという気もするけれど、
ハシゴするとき以外、行った先々の店で、その日の自身の体調など関係なく、
常に最大量を注文して勝負し続けていると、時々、本気で逝きそうになる。
このバンジージャンプに命綱なんてない、
あるのは死線を彷徨うかもしれないという疑心だけ…!
かつて何店かある"逝きかけた店"の中でも、
強烈な印象として残っているのが、高知市瀬戸にある「雅」
メニューには「中盛」と「大盛」しか無かったため、
<おそらくは2玉・・・楽勝だ・・・>なんて、量への警戒心ゼロで「大盛」を注文した、
その油断が引き金となって、突如現れた1000メートル級の山々ならぬ、"麺々"の攻撃の前に、
なんとか全量を食べられたものの、
危うく途中で、ライオンはライオンでも「マー」が付くライオンと化すところであった。
あの夏の出来事から半年。
私は1日3食、シッカリと限界まで食べまくり、
「雅」の「大盛」を余裕で制圧できるほどにアップデートされた胃袋を搭載して、
今一度、瀬戸の住宅街を目指していた。