この記事は『オハラうどん』の話の続きです。
偶然が偶然を呼び、その偶然にまた偶然が重なり、いったいどういうわけか、僕は毎度香川にきた場合と同じように本場の讃岐うどんを美味しく食べてしまった。
けれども僕は『瀬戸大橋の点検をする』という本来の目的を、片時も忘れることなどなかった。
<暑いなぁ・・・やっぱり高知よりも暑く感じる・・・>
僕は『瀬戸大橋記念公園』を歩きながら、そう思った。<でも風が吹いているからか、ジメジメしてない!>
公園の広い敷地の中には、麦焼酎みたいに透き通った水が出ている水場があり、そこで水着姿の子供たちが水浴びをしている。
それを横目に、僕はゆっくりと公園内を歩く。
<俺にもあんな頃があったなぁ・・・>
空には水色が広がっていて、所々に白が浮かんでいる。<俺の水浴び場は、もっぱら田舎の川だったけど・・・>
感慨にふける。そして自覚する。
<あぁ・・・俺、視点がすでにオッサンだ・・・>
緑茶みたいに緑な芝生の上を歩く。
眼前には、カップヌードルKINGよりも巨大な瀬戸大橋が見える。
僕はすぐさまカップヌードルKINGこと、瀬戸大橋の点検に取りかかる。
点検の仕方は、当然のことながら、伝統の指差し確認。
ひとつひとつ声に出しながら指差し確認する。
・・・蚊の羽音ほどの声量で、だ。
「目視点検開始・・・!
橋脚!異常なし!欄干!異常なし!」
瀬戸大橋・・・!
圧倒的っ・・・正常・・・!
以上で瀬戸大橋の点検は終了した。
<大変に重要な任務をこなして、いささか疲れたぜ!>
と僕は額に滲んだ汗をぬぐう。土佐弁も飛び出す。「げに、まっことミッションコンプリートやねゃ、げに!げに!」
それから激務を終えた記念に、ジョジョ立ち風味なポーズを取って記念撮影をする。
ふと横を見ると、高校生ぐらいの若いお兄ちゃんたちが、ジョジョ立ちする僕を見て微笑してくれていた。
俺を笑うな、行く道じゃ。
歳を重ねると、ジョジョ立ちがしたくなる。
これは誰しもが通る道だ。
公園の奥に何か大きな建物があったので、近くまで行ってみる。
建物には『瀬戸大橋記念館』と書かれている。
<ちょうどいい・・・!>と僕は思う。
僕は瀬戸大橋の点検にきたにも関わらず、瀬戸大橋のことなど何も知らないからだ。
入館料は、なんと無料。
<太っ腹・・・!>
僕は驚きあまって連呼する。<ありがたいっ・・・!ありがたいっ・・・!>
それから自動ドアを潜り抜け、中へ入って見学する。
広々とした館内。
エアコンが効いていて涼しい。
瀬戸大橋に関する資料や模型などが、たくさん並べられている。
僕はそこに展示された情報のすべてをキチンと頭の中に入力した。
しかし、そのすべては3歩歩くと、頭の中からキレイサッパリ消え去っていった。
瀬戸大橋記念館を出て、再び公園内を散策する。
すると、キリン何頭分あるのかわからないぐらい、大きな塔を発見した。
その塔のたもとに僕は買い物に出かけるときの馬みたいな速度で、せっせと近付いて確認する。
塔の下部には、『瀬戸大橋タワー』と書かれている。
「瀬戸大橋・・・タワー・・・」
と僕はそこに書かれた文字を、小さく声に出して読んだ。
そしてその右側に少し空間をあけて書かれた文字も、ついでに呼んだ。
「さ・・・ぬ・・・き・・・う・・・ど・・・ん・・・」
<瀬戸大橋タワーの建物の中にまで、うどん屋があるなんて・・・>
僕は驚愕。<さすが・・・!さすがだっ・・・!>
頭の中には、香川県のキャッチコピーが浮かぶ。
『うどん県。それだけじゃない香川県』
<たしかにうどん・・・それだけじゃない・・・かもしれない・・・>
僕は暑さで額に滲む汗を拭う。<骨付鳥もあるし・・・瀬戸大橋もあるし・・・灸まんもあるし・・・>
だけど・・・それでもやっぱり・・・。
香川・・・。
うどん屋だらけじゃないかっ・・・!
ともすれば、都市部のジュース自販機よりも狭い間隔で、うどん屋さんがある香川県。
瀬戸大橋記念公園内にも、うどん屋さんがあるとは・・・。
圧倒的・・・!
うどん天国・・・!
どうやら香川にきて、「うどん」の3文字を見ないようにすることは、不可能なようである。
瀬戸大橋タワーは、料金を支払うことで、遊園地のアトラクションにありそうな可動式の・・・なんと言ったらいいのかわからないような、グルグル横方向に回転しながら上空へのぼる乗り物に乗り、グルグル上昇したのちに、瀬戸大橋と瀬戸内海に浮かぶ島々を眼下に見ることができる・・・というもの、みたいだったけれど、僕は乗らなかった。
まぁ、いいや。の精神である。
とにもかくにも様々な紆余曲折を経て、『瀬戸大橋の点検』という最大にして唯一の任務を終えた僕は、ここを去る前にもう一度、瀬戸大橋の姿を目に焼き付けておこうと思った。
僕は再度『瀬戸大橋記念館』へ歩く。
そして屋上に上る。
瀬戸大橋記念館の屋上は、展望台になっていた。
展望台から辺りを見渡すと、眼下には、深い青色した瀬戸内海。
空には水色が広がっていて、相変わらず所々に白が浮かんでいる。
その中間に、瀬戸大橋が架っている。
僕は、瀬戸大橋を背に身構えた。
それから勢いよく両手を広げて言い放つ。
「グリコ・・・!」
(なんか違う・・・)