これがうどん屋なのか、と驚く店が香川にはある。そんな店に俺は会いたかった……!
(* 当記事は過去記事のリライトで、実際に訪問したのは2014年4月です)
うどん冨永
香川県丸亀市にあるうどん店『冨永』。その外観……。
民家………!
完全なる民家っ……!!
そして鯉のぼり……!
まさかの鯉のぼり……!!
屋根より高い……!
否っ!
屋根より低い、むしろ天井よりも低い鯉のぼり!
『冨永』の周辺は、住宅や田んぼだらけ。
「えっ!こんなところにうどん屋が……!?」なんて一寸驚くが……。
こんなところに、うどん屋があるのが香川。気持ちのいい讃岐!ってものである。
▲ 『冨永』の入口は完全なる玄関。
誰が見ても玄関っ!
戸を開け、入る……!
「ごめんください……」
この局面!竜一!目の前に広がる光景に息を呑む……!
中も玄関。いたって玄関。
誰が見ても人んち……!!
脇に置かれた小さな丸太の断面には、「土足でどうぞ」と書かれている。
「人のお宅に土足で上がる感じで、なんか恐縮しちゃうな……」
正面に水槽。熱帯魚入り。
魚を見ると食べたくなる竜一。あえて見ないようにして奥へ進む。
進むと、すぐさま注文カウンターを発見。
「セルフ店か……!」
数名の人が並ぶ最後尾に付ける。
並んでいるあいだに、カウンター上部に掛けられたメニューから食べるうどんを選出する。
迷う竜一。
「どれにする!どれにする俺!あつあつ…ひやひや…ひやあつ!うぐっ…冷たい醤油も捨てがたい……!」
店内、明らかにうどん食べ歩きの最中だと思われる若者の集団で賑っている。
「どうする、どうする……!」
悩んでいるあいだに順番!来る……!
まずは店のおばちゃんのターン!
「なんにしましょ……!」
このとき竜一!まだ何も決めていない!そんな状態………!
当然…………!
絶句っ……!
なんと注文していいのやら……!
なんと申し上げていいのやらわからない……!
圧倒的!絶句っ!
「わからない…何を注文すればいいのかわからないよ……!」
悩んで悩んで悩み抜いているあいだに、竜一のターン、飛ばされる……!あとから来た若者が先に注文。
「しまった。決断が遅すぎた……!ああ、でもお先どうぞ……」
再度!おばちゃんのターン!
「ご注文どうぞ……!」
交錯する……!
おばちゃんと竜一の視線がぶつかり合う…!
「うぐっ!決められない!おばちゃん、俺はまだ決められないんだよ…!三十すぎて決断力不足なんだよ……!!>
詰められた………!
俺のキングは完全に包囲された……!!
チェックメイト……!
万事休すかに思われたそのとき……!
目に入る……!
名物……!名物……!名物……!
名物っ…!!!
温卵うどん……!
「とくに、いまこれじゃないとダメだ、といううどんの食べ方があるわけじゃない。だったらここは…郷に入っては郷に従え……!」
委ねよう……。
流れに、身を……!
カウンター越し……!
おばちゃんに注文……!
「温卵うどん……!」
そのとき、おばちゃん!
「麺、温めましょうか?今日は寒いのでねぇ……」
温卵には「温」と「冷」があるのか…!
だがこの局面!竜一、まともな判断できず……!
「は、はい……!」
どちらかというと「冷たい麺」が食べたかったにもかかわらず、麺を温めることに同意してしまう……!
「しまった。完全に不意打ちを食らってしまった!ホームの高知ではこんなことはない。こんなことはないのにっ!さすがは香川……いつものプレーをさせてもらえないっ……!」
サッカーのセリエA……!
野球のメジャーリーグ……!
それが香川……!
それがメッカ・讃岐!
竜一が香川の洗礼を受けている頃、カウンターの向こう側では、おばちゃんと…おそらくおばちゃんの旦那さんだと思われるおじさんが連携プレーでうどんをこしらえていく……!
「ちょっと量が少ない…」と、おじちゃんに言って、麺を増してくれるおばちゃん……!
「少なくても大丈夫だよ!俺まだこのあと何軒かハシゴする予定だから……」そう思ってしまったが、この心遣い……!
ありがたい……!
圧倒的感謝っ……!!
出来上がったうどんを手に持ち……!
鯉のぼりの下のカウンター席に座る……!
「店内よく見れば、何尾かの鯉のぼりがいる。どうしてこんなに鯉のぼりがいるんだろう……!」
わからない……!
わからないがしかし……!
わからないことは、わからないままにしておけばいいっ……!!
ベールを脱ぐ……!
名物!温卵うどん!
「煮物が付いている……!」
思えば、わからないことだらけだった……!
「温卵うどん」とは何なのか……!
かけ出汁がかかっているのか、ぶっかけ出汁をかけて食べるのか、あるいは釜揚げうどんのように、つけ出汁に浸けて食べるのか……。
食べ方の想像が付かなかった……。
正解は……!
醤油!
醤油で食べる、他店でいう「温玉醤油」の仕様……!
純白の麺……!
ガンダムでいう、ホワイトベースっ!!
そして……!
そして………!
うどん!それだけじゃない『冨永』……!
「煮物」と「お漬物」まで付いている……!
温玉ではない、温卵。
それを割り入れる。
さらに、ここがうどん野郎、腕の見せどころ…!
「垂らすんだ!天空から……!」
俺たちの出汁醤油を……!!
立ち上る!湯気!
反り返る!エッジ!
嬉々として食べる……!
竜一、至福、至福の実食……!
芳醇な小麦の香り!ムッチムチ!伸びのあるゴム感!そんな麺に絡む温玉!幸せの形がここにある……!!
そのとき『冨永』のおばちゃんが来て言う。
「コーヒーを無料でお出ししています。いかがですか?」
恐縮のあまり、ドモる竜一。
「あ、あ、ああっ!いただきます!」
店の片隅に、"無料"と書かれたコーヒーが置かれているのには気付いていた。しかし、それは"セルフ"とも書かれていた。
ところが、セルフであるはずのそのコーヒーを、おばちゃんがわざわざ淹れてくれるというのだ。
「すみません、あじゃじゃじゃっす……(ありがとうございます)」
砂糖は入れるか、ミルクは入れるか、と聞いてくれたあと、さらに……。
「コーヒーの粉はスプーン1杯でいいん?」
「スプーン1杯……。んんん……」
スプーンの大きさによる!
「小サジなら2杯!大サジなら山盛り1杯かな……」と思ったが竜一!大人!
「いいです!いいです!」天使のように微笑み返した。
そういうやり取りを経て、おばちゃんが淹れて、おばちゃんが持って来てくれたコーヒー!
カップがオシャレ!
オシャレと言えば…の『anan』に掲載されそうなくらいオシャレなカップの中で輝く、漆黒の液体。
「砂糖もミルクも入っていない、ブラックコーヒー」
だがっ……!
だが入っている……!
おばちゃんの愛が……!
並々入ってる……!!
スプーンもオシャレ!
「こりゃあコーヒーカップマニアには、たまらないものがある……」
食べ終えて店外に出る。
駐車場から車を出そうとしていると、店のおばちゃんが外に出てきた。
「え?なになに?」戸惑っていると、おばちゃん、店の前を走る道路に出て、「オーライ!オーライ!」と車を誘導してくれる。
「わわわ…すいません!ありがたい……!」
本気で恐縮しながら、丸亀の民家うどん『冨永』をあとにした。
「うどん冨永」の所在地、営業時間、定休日、駐車場
所在地/香川県丸亀市川西町北806−4(地図)
営業時間/9:00~15:00
定休日/月曜日、第3日曜日 現在は土日のみ営業されている模様(情報提供ありがとうございました)。
営業形態/セルフ
駐車場/有