餅は餅屋、という言葉があるように、うどんはうどん屋である。
高知や本場香川の「讃岐うどん」をたくさん食べ歩いてきた私にはわかる。
高級な和食料理店の出すうどんでも、うどん専門店のそれにはかなわない。いくら名をはせた野球選手でも、サッカー選手にサッカーの実力で勝ることなどできないのだ。
だから当然、きしめんを食べるならば、きしめんを主体に営業されるお店で食べるのがベスト。
きしめんは、きしめん屋に限る…はずである。
名古屋旅行に出かけたその日、晩ごはんをどこで食べようかと考えた。
「せっかくだから名古屋ならではのもの……名古屋のご当地グルメが食べたい」
ネットで検索して向かった先は、『伍味酉(ごみとり)本店』という、名古屋の繁華街・栄(さかえ)にあるお店。
伍味酉本店(名古屋市・栄)
![伍味酉本店(名古屋・栄)の外観](https://syoga-udon.com/wp-content/uploads/2018/01/d81218b7aba51f60651e32503096eed1-1.jpg)
伍味酉本店(名古屋・栄)
普段、繁華街でもそれほど人のいない高知に住んでいる高知県民。道を歩く人の数に驚きながら『伍味酉本店』の、のれんをくぐる。
だが、あいにく店内は満席。
「お待ちいただくことになりますが……」
と店のお姉さんが言う。
ほかにアテもなく、幼児連れで寒い冬の夜道をさまようことはしたくないから「待ちます」と答えて、店内入口付近に置かれたイスに腰を下ろして待つことにした。
「予約しなきゃいけなかったな……」
少し後悔。ホテルにチェックインしてすぐに出てきたドタバタの中で「予約」という概念を忘れていた。
半個室になったテーブル席も見える。
幼児連れの局面。
「できれば半個室がいいけれど……」
10分ほど待っていると、先ほどのお姉さんがやってくる。
お姉さんは、幼児連れの心中を理解しているようで、申し訳なさそうに言う。
「テーブル席でしたら空いたのですが、大丈夫そうですか?」
一度様子を見てみるか、と言うので見せてもらう。
結果は……。
大丈夫。いけそう。
イスの雰囲気的に。
ゆったり座れそうな革張りのイスが素晴らしい。持って帰りたくなるほどのイスだ。
「ここで大丈夫です」と伝えて、着席。
伍味酉(ごみとり)本店の店内
通されたテーブル席のほかに、半個室になったテーブル席に、カウンター席がある店内は多くの客で賑わっている。
幼児連れで来られているかたはほかにもいて、小さい子を連れていても悪くない居心地。
伍味酉本店のメニュー
様々なメニューが並ぶ、伍味酉本店のメニュー。
「カエルの唐揚げがある……!」
注目はやはり「名古屋めし」。
手羽先に味噌串カツ、どて煮込み、きしめん。名古屋グルメといえば…のものが勢揃い。
ハイボールを飲み、キャベツに赤味噌をつけて食べる名古屋流
初手はハイボール。
1杯380円と、なかなか安い。
![伍味酉本店・栄・食べ放題のキャベツ](https://syoga-udon.com/wp-content/uploads/2018/01/bfee3e671fe00890d9848b3b9502a704.jpg)
伍味酉本店 食べ放題のキャベツ
焼鳥屋さんのように、キャベツは食べ放題。おかわり自由。
卓上に用意された「赤味噌」を、そのキャベツにつけて食べる。
うまい!
「でも甘いなぁ……」
そう言う私に、妻は無表情で言った。
「名古屋の味噌は、甘いとしたものでしょう」
そ、そうだよね……。
「まさかマジレスされるとは……」
「なんかおかしいこと言った?」
「……いえ、言っていません」
それにしても……と私は続ける。
「シンプルな食べ方だけど、家でキャベツに味噌つけて食べたりしないから、なんだか新鮮だよね」
「家で同じことをしても、おいしくないもん」と妻は言う。
たしかに……。
家でキャベツに味噌をつけて食べても、絶対においしいと感じない。
「お店の雰囲気が、"おいしい"と思わせるのかもしれないね」
名古屋名物 どて味噌煮込み
![伍味酉本店・栄・どて味噌煮込み](https://syoga-udon.com/wp-content/uploads/2018/01/5ca988435ff0c2009327d14b25550d61.jpg)
伍味酉本店 どて味噌煮込み
赤いっ……!!
見るからに赤い。高知の居酒屋さんで見かける「どて煮込み」とは色の違う一品。
「赤いなぁ……」
と、驚く私に妻。
「赤味噌だからね」
「そ、そうですよね……」
トロトロに煮込まれた牛すじ肉と、大きめに切られたコンニャクが入っている。
「やっぱり高知のすじ煮込みより甘いなぁ……」
そう言う私に、妻……。
「赤味噌って大体、甘いとしたものでしょう」
「そ、そうですよね……」
名古屋のはち丸君天むす
2歳の娘のために注文した、名古屋名物「天むす」。
「はち丸」というキャラクターを模したものらしい。
「エビ天をくわえたキャラクター?」
斬新な発想だと驚いていると、妻が言う。
「それ逆だよ……」
「え……?」
「エビ天がチョンマゲなんだと思うよ」
「えっ?エビ天をくわえてるんじゃないの?」
真剣に戸惑う私に、真剣な表情で妻は言う。
「そんなキャラクター、いないでしょう……」
![伍味酉本店・栄・名古屋のはち丸君天むす](https://syoga-udon.com/wp-content/uploads/2018/01/4a93808c3027cf711e015557f700ee18.jpg)
伍味酉本店 名古屋のはち丸君天むす
こ、こうか……!
エビ天は、チョンマゲだったのか……!
グリーンピースの目と、海苔の口。なんとも愛らしい表情である。
この「はち丸」くん。あとから調べてみると、名古屋市の公式マスコットキャラクターだとのこと。
「知らなかった……」
名古屋の本家 国産手羽先の唐揚げ
![伍味酉本店・栄・手羽先の唐揚げ](https://syoga-udon.com/wp-content/uploads/2018/01/9b749a346b86dc800d307763b1750d86.jpg)
伍味酉本店 名古屋の本家 国産手羽先の唐揚げ
名古屋といえばのグルメ「手羽先の唐揚げ」。
伍味酉本店のメニューに記載された、真っ二つにして食べる、手羽先の食べ方。
これは私も知っていた。
「以前、高知のひろめ市場にあった手羽先のお店で教えてもらった食べ方だ……」
それにしても……
「あの店長が言っていた食べ方、本場でも通用するガチな食べ方だったんだ……」
いままで疑っていたことを謝りたいが、もう店が存在しない。店長もどこへ行ったのやら……。
そばにある厨房で、お兄さんが衣をつけて油で揚げてくれているその手羽先は、さすがのおいしさ。
「まぶされいるタレ!そして肉がうまい……!」
さすがは手羽先激戦区・名古屋である。
香川における「うどん」のレベルが他県と段違いであるように、激戦区であるがゆえに手羽先のレベルが違う。
名古屋名物 味噌串カツ
![伍味酉本店・栄・名古屋名物味噌串かつ](https://syoga-udon.com/wp-content/uploads/2018/01/3720dceffeafd4a2c199a093829e6aab.jpg)
伍味酉本店 名古屋名物 味噌串かつ
串にさされた味噌カツ「味噌串カツ」。
それを食べながら、焼酎をあおる。
「味噌と焼酎もなかなか合うぞ!」
このとき飲んでいたのは、高知の飲み屋さんでもときどき見かける「赤兎馬(せきとば)」という名の芋焼酎。
赤兎馬とは、三国志で呂布や関羽が乗っていた愛馬の名前。
「赤い毛色を持ち、兎のように素早い馬」の意……らしい。
名古屋グルメ「きしめん」がおいしい!
当初、伍味酉本店で「きしめん」を食べるつもりはなかった。
餅は餅屋、うどんはうどん屋、きしめんはきしめんを主体に営業されるお店で食べるのが、もっともおいしいだろうと考えていたからだ。
しかし、飲んだシメに「きしめん」は悪くないし、2歳の娘も食べそうだ。
……というわけで注文。
これが驚愕のおいしさだった。
![伍味酉本店・栄・味噌きしめん](https://syoga-udon.com/wp-content/uploads/2018/01/542895b0d057f1947be605229b5e4489.jpg)
伍味酉本店 名古屋コーチン入り味噌きしめん
きしめん文化がない高知。
うどん屋はあるが、きしめん屋はない。
スーパーでは売られているが、きしめんを提供するお店自体がなく、きしめんを食べる機会は少ない。
それでも、うどんの出汁と同じようなものに浸かったきしめんは何度も食べたことがある。
けれども味噌仕立てになったスープに浸かるきしめんは初めてだ。
「きしめんを食べるくらいなら、うどんのほうがおいしくない?」
伍味酉本店の「きしめん」は、そうやって「きしめん」を舐めきった四国人である私の中の「きしめん」というものの概念を打ち崩す一杯だった。
なにこれ、おいしい。
餅は餅屋だと思っていた。しかし……。
「伍味酉は、きしめんを主体に営業されるお店じゃないのに、きしめんがおいしい……」
味噌の中に出汁がシッカリ効いている……。
「シイタケの出汁か……?」
味噌スープに沈むシイタケから、出汁が出ているのか……!?
はたまた名古屋コーチンの出汁、あるいは両方……。
いまでも「餅は餅屋理論」を私は捨てていない。
だがたしかに伍味酉本店の「味噌きしめん」は、印象に残るおいしさだった。
事実、この世に生を受けてわずか二年のあいだに高知県中のうどん屋を食べ歩き、讃岐うどんの本場・香川のお店もすでに数十軒巡礼済み。
……という、小麦でできた白くて長い麺の英才教育を受ける2歳の娘も「おいしい!」と絶賛して食べていた。
伍味酉本店はきしめん屋さんではないはずだが、考えてみれば名古屋市全体が巨大なきしめん屋さんなのかもしれない。
香川県全体がうどん屋さんで、高知県全体がカツオのタタキ屋さんであるように。
「伍味酉本店」の所在地、営業時間、定休日、駐車場
所在地/愛知県名古屋市中区栄3丁目9-13(地図)
営業時間/17:00~翌5:00(L.O.4:00、ドリンクL.O.4:30)
定休日/無(店舗メンテナンスのために休む場合有り)
駐車場/無
クレジットカード/VISA・MASTER・UC・DC・JCB
■カウンター席/有 ■テーブル席/有(半個室有り) ■座敷/2階にある模様も、おもは宴会用?