BAR『ラストチャンス』で目の焦点が合わなくなるほど飲んで、高知市中心部の飲み屋街を歩いていた。 空は真っ暗だけれど、街は明るい。通りに並ぶ飲み屋のネオンが朱色に輝いていた。熟れ始めのイチゴみたいな色だった。 <蕎麦で締めよう……> 普段、飲んだときはうどんかラーメンで締めるのに、このときだけそう思ったのは『ラストチャンス』で常連さんに『唯』という蕎麦屋を薦めてもらったのがきっかけだった。 <あの蕎麦屋…まだ開いてるよね…!>何度か店先を通ったことがある店だった。 『蕎麦茶屋 なべしま』 店の戸を開けると ...