あのころ、まだ私はハタチになるかならないかだった。あのころ、まだ私はうどんに溺れていなかった。あのころ、まだ私は生姜農家ではなかった。 おそらくは、十年ぶりの再会だった。 鮭が川を上るように、再び私は「鹿水庵」に帰ってきた。 けれども、私はそこで産卵しない。 『うどん 鹿水庵(かすいあん)』 <こんな感じのお店だったか・・・!> 店内の記憶は、完全に消失していた。うどんの記憶についても同じで、何を食べたのか、どんな味だったのか、もうまったく思い出せない。 何度か来た記憶だけが、溶けて消えてしまいそうなほど ...