台所でうどんをゆでているときに、電話がかかってきた。私はAM放送にあわせて石川さゆりの『天城越え』の序曲を口笛で吹いていた。うどんをゆでるにはまずうってつけの音楽だった。 電話のベルが聞こえたとき、無視しようかとも思った。うどんはゆであがる寸前だったし、石川さゆりは今まさにその歌声を、さゆり的ピークに持ち上げようとしていたのだ。 しかしやはり私はガスの火を弱め、居間に行って携帯電話をとった。ハルキがノーベル賞を逃したことで、私のところに選考委員会から電話がかかってきたのかもしれないと思ったからだ。 「スパ ...